[特許/欧州] クレーム解釈における明細書及び図面の参酌(G1/24 : Heated aerosol事件)
EPOの審判合議体は、2024年6月24日、欧州特許の特許性を評価する際のクレーム解釈において明細書と図面を参酌できるかどうか、またどの程度参酌できるかについて、中間審決T0439/22を通して拡大審判部に質問を付託していたが、拡大審判部は、2025年6月18日、クレーム解釈においては、明細書及び図面は常に参酌されるべきとする審決(G1/24)を出した。
本審判事件は、Philip Morris Products S.A.が所有する欧州特許第3076804号の特許を維持するという異議部門の決定に対する上訴事件である。いわゆる「加熱式たばこ」に関する発明において、「ギャザーシート」という用語の解釈が問題となっている。もし、その用語が当該技術分野で通常の意味を与えられると解釈されれば新規性を見出すことができる一方、明細書中の定義を考慮してより広く解釈されれば先行技術に基づいて特許は無効となる可能性があった。
ここで、EPOの審査部門と異議部門は、欧州特許出願のクレームがそれ自体で明確でなければならないという審査ガイドライン(GL F-IV 4.1-4.2参照)に定められた慣行を長年貫いている。これは、欧州特許のクレームのみがEPOのすべての公用語で公開されものの、明細書はすべての公用語では公開されないためである。よって、明細書においてクレームの用語に明示的な定義またはその他の方法で特別な意味が与えられている場合、通常、クレームの文言だけでその意味が明確になるようにクレームの補正が要求される。
この慣行は、欧州特許条約(EPC)第84条(明確性)に依拠し、将来の法的確実性を確保するためにクレームの文言のみに焦点を当てるという見解をしばしば示す審判部による判例法によって長らく支えられてきた。
一方で、欧州特許条約(EPC)第69条では、付与された欧州特許の保護範囲はクレームによって決定され(第1文)、明細書及び図面はクレームの解釈に用いられる(第2文)と規定されているところ、これに依拠して新規性や進歩性などの特許性を審査する際にも第69条を適用すべきとの審判部による判例法も存在した。
このように、EPOの手続きにおいてクレームがどのように解釈されるべきかについては、判例法に明らかな相違が存在するため、法的確実性のために拡大審判部による決定が必要であるとして、以下に示す質問が付託されていた。
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1. EPC第52条から第57条に基づき発明の特許性を評価する際、クレームの解釈についてEPC第69条第1項第2文及びEPC第69条の解釈に関する議定書第1条を適用するか? 2. 特許性を評価するためにクレームを解釈する際、明細書及び図面を参酌してもよいか?参酌する場合、これは一般的に行ってもよいか、それとも当業者がクレームを単独で読むと不明確又は曖昧であると判断した場合にのみ行ってもよいか? 3. 特許性を評価するためにクレームを解釈する際、明細書に明示的に記載されている、クレームで使用される用語の定義又は類似の情報を無視してもよいか?また、どのような条件下で無視できるか? |
付託された質問に対する拡大審判部の結論は以下の通りである。
質問1:EPCの条項に基づく明確な法的根拠は存在しないと判断した。
質問2:クレームが不明確又は曖昧である場合に限らず、常に明細書や図面を考慮すべきと判断した。
質問3:質問2に含まれるため判断不要とした。
EPOの審査においては、クレームの用語の意味が意図せず広く解釈されてしまうことや、クレーム中で用語が適切に定義されていないために明確性違反を指摘されることもある。これまで、明細書の記載に基づいて反論しても、クレームはそれ自体で明確であるべきであり、明細書を参照することなく解釈されなければならないとして反論が認められないことも多かった。今回の拡大審判部の審決により、このような拒絶が減ることが期待される。
Heated aerosol事件の中間審決(T 0439/22 (Gathered sheet) 24-06-2024 | epo.org)
拡大審判部への付託(Referral to the Enlarged Board of Appeal – G 1/24 (“Heated aerosol”) | epo.org)
審決(https://link.epo.org/web/case-law-appeals/Communications/G_1_24_Decision_of_the_Enlarged_Board_of_Appeal_of_18_June_2025.pdf)