[特許/米国]「Revised Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions (AI支援発明に関する改訂版発明者認定ガイダンス)」について
米国特許商標庁(USPTO)は、2024年2月13日に、「AI支援発明に関する発明者認定ガイダンス(Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions)」を公表しました。同ガイダンスは、AI支援を受けた発明において自然人の貢献が特許取得に足るかを判断する枠組みを示すものでした。
その後、USPTOは当該指針を全面的に撤回し、新たな審査指針(発明者認定ガイダンス)を示しました。
Federal Register :: Revised Inventorship Guidance for AI-Assisted Inventions
撤回の主因は、従前のガイダンスが共同発明者性を判断するためのPannu要素の適用に依拠していた点にあります。Pannu要素は複数の自然人の共同発明を判断する場合に限って用いるべきものであり、AIは法的に「人」ではないため共同発明者となり得ません。したがって、自然人1名がAIの補助を受けて発明した事案には共同発明の問題が生じず、Pannuの適用は不適切でした。新指針の骨子は、AI支援の有無にかかわらず発明者認定の法的基準は変わらないという点にあります。連邦巡回控訴裁判所の判示に照らし、AIはいかなる高度な能力を備えていても特許出願や登録特許の発明者として記載できず、発明者は自然人に限られます。
連邦巡回控訴裁判所は、発明者認定の中核を一貫して「着想(conception)」に置いており、着想とは、発明者の心中に完成・作動可能な発明の明確かつ恒久的な観念が形成され、実務に適用できる状態に至ることとされています。着想の分析は、発明者が発明を具体的に記述できる能力にかかっており、そのような記述がなければ、発明者は後に、発明の完全な心像を有していたことを客観的に立証することはできません。
AIは、生成AIを含む計算モデルであっても、発明過程における「道具」として位置づけられます。実験機器、ソフトウェア、研究データベース等と同様に、人間の発明者が用いる補助的手段に過ぎず、AIがサービスやアイデアを提供しても、それによりAIが共同発明者となることはありません。したがって、自然人1名がAIの支援を受けて発明した場合には、その人物が従来の着想基準を満たしているかのみを検討すれば足ります。他方、複数の自然人が関与してAI支援のもとで発明が創出された場合には、共同発明の従来原則が適用され、各人が着想または実施化に重要な形で寄与し、発明全体に照らして質的に有意であり、既知の概念や技術水準の説明にとどまらないことを、Pannu要素により評価します。AIが用いられた事実自体は、人間同士の共同発明分析を変更しません。
手続面では、USPTOは出願データシート(ADS)や宣誓/陳述書に記載された発明者を実際の発明者と推定する一方、発明者欄にAIなど非自然人を記載した出願については、全請求項に対して35 U.S.C. 101および115に基づく拒絶または適切な措置を講じます。さらに、本指針は実用特許のみならず意匠特許および植物特許にも同様に適用されます。意匠特許では実用特許と同一の発明者認定基準が適用され、植物特許では、独自性の認識と無性生殖に加え、植物の創出への寄与が必要であり、AI支援の有無はこの要件を左右しません。
優先権や利益主張に関しては、先願と米国出願・特許は同一の自然人発明者を記載するか、少なくとも一人の自然人の共同発明者を共有していなければなりません。AIのみを発明者とする外国出願への優先権主張は認められません。非自然人を共同発明者として許容する外国出願に基づく場合でも、米国側の出願データシートには自然人のみを発明者として記載し、外国出願と共通する自然人を確保する必要があります。PCTの国内段階移行(35 U.S.C. 371)においても、国際出願に非自然人の共同発明者が記載されている場合は、米国提出時点の出願データシートで自然人発明者のみを記載することで米国の要件に適合させます。総じて、新指針は、AIの関与が広がる環境下でも、発明者認定の法的枠組みを従来の原則に忠実に維持し、AIを発明者として扱わないという明確な運用を再確認するものです。