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[商標・意匠/英国、EU]イギリスのEU離脱延期を踏まえた商標・意匠関連の対応について

既報のとおり、イギリスとEUが2019年10月31日までの「柔軟な延期(Flextension;「柔軟な延長」とも)」に合意したことにより、イギリスのEU離脱(ブレグジット;Brexit)は再延期された。しかしながら、本稿公表時点(5月7日)では、離脱協定が早期に合意に達することにより再延期後の期日前に「秩序ある離脱(合意ありの離脱)」となる可能性や、イギリスの欧州議会選挙不参加により6月1日に「合意なき離脱(「No Deal Brexit」又は「No Brexit Deal」)」をする可能性があると報道されており、さらには離脱撤回を問う再度の国民投票や議会の解散・総選挙に関する憶測も出ており、依然として先行きは不透明である。
(追記:現地時間の5月7日、イギリスは欧州議会選挙に参加する意向を表明したため、6月1日の「合意なき離脱」はなくなった。)

当初の離脱期日であった3月29日や最初の延期後の4月12日までにイギリスが「合意なき離脱」に踏み切ることはなかったが、【出典】(1)~(5)等で示されている情報に基づいて、仮に最終的に「合意なき離脱」となった場合における欧州連合商標(EUTM)及び登録共同体意匠(RCD)の取扱いのうち出願及び登録に関する主な事項を以下に示す。

「合意なき離脱」となった場合における欧州連合商標(EUTM)・登録共同体意匠(RCD)の出願及び登録の取扱いに関する主な事項

(1)離脱期日以前に登録済みの場合
EUTM及びRCDの権利者には、イギリス国内において、EUTM及びRCDと同等の権利が自動的かつ無償で付与される。

このような形で自動的に付与される同等の権利は、原登録とは別の独立したもの(現地では「クローンの登録(cloned registration)」とも呼ばれる)となるため、その更新については、イギリス知的財産庁(UKIPO)の通知に従って、原則として、存続期間満了前6か月から満了の日までに、UKIPOに対して行う必要がある(ただし、存続期間満了後の更新に係る追加費用の免除等に関する特例措置あり)。

(2)離脱期日の時点で審査に係属中の場合
離脱期日後9か月以内は、出願日や優先日を維持したまま、イギリス国内においてEUTM又はRCDと同等の保護を求めて再出願することができる。ただし、UKIPOは、出願人に対し、再出願期間の通知は行わない予定となっているため、期限を渡過しないよう注意する必要がある。なお、再出願費用は、通常のイギリス国内出願と同額となる予定である。

(3)マドプロ国際登録・ハーグ国際登録
EUを領域指定する国際登録の権利者には、離脱期日後、イギリス国内において国際登録と同等の権利が自動的かつ無償で付与される。この場合、自動的に付与された登録(クローンの登録)は、原登録から独立してイギリスで登録されたものとして扱われるため、原登録とは別途にUKIPOを通じて管理及び更新する必要がある。

一方、「秩序ある離脱」となる場合は、上記の「離脱期日」を、離脱協定の内容に従い「2020年12月31日の移行期間満了日」に置き換えた上で同様の取扱いとなる見込みである(詳細は【関連記事】参照)ただし、イギリスの離脱が当初より遅れているため、移行期間満了日が延期される可能性も考えられる。

このように手続きや費用の負担において相違が出ることは予想されるが、「合意なき離脱」か「秩序ある離脱」かに関わらずイギリスにおける商標権及び意匠権の取得についてはブレグジットによって生じうる混乱を回避する準備はおおよそ整っているといえる。その一方で、離脱時期が早々に確定する様子は見受けられない。そのため、確実性、費用等の面で優先すべき特別な事情がなく、予防的な措置(例えば、マドプロやハーグの利用に際して欧州とは別にイギリスを指定すること)も不要であれば、既報で述べた審査期間等も考慮しつつ、当面はこれまで通りに出願、登録及び登録更新等の手続きを進めることが妥当なケースが多くなると考えられる。

本稿では説明を割愛したが、出典(1)~(3)では消尽、優先権、代理、同等の権利に付与される番号の体系等についてEU離脱後の取扱いが説明されており、出典(2)では「合意なき離脱」となった場合における取扱いが39項目(2019年3月22日公表時点)に分けて説明されている。

なお、出典(1)では、商標及び意匠だけでなく特許についても、ブレグジットの影響を説明した動画が提供されており、概要の理解に役立てることができる(動画への直接リンクは【参考】を参照)。

【出典】
(1)イギリス知的財産庁「IP and Brexit: the facts
(2)イギリス知的財産庁「Changes to design and trade mark law if the UK leaves the EU without a deal
(3)イギリス知的財産庁「Changes to trade mark law if the UK leaves the EU without a deal
(4)日本特許庁「合意なき英国の離脱(No-Deal Brexit)の可能性:マドプロ制度のユーザへの影響
(5)日本特許庁「合意なき英国の離脱(No-Deal Brexit)の可能性:ハーグ制度のユーザへの影響
(6)イギリス知的財産庁「Exhaustion of intellectual property rights

【参考】
欧州知的財産庁(EUIPO)「Brexit Q & A: Impact of the UK’s withdrawal from the EU – EUTMs and RCDs
イギリス知的財産庁「What will happen to your EU trade mark in the event of no deal Brexit?(動画)」
イギリス知的財産庁「What will happen to your Registered Community Design when we leave the EU?(動画)」
イギリス知的財産庁「What will happen to my Unregistered Community Design when we leave the EU?(動画)」
イギリス知的財産庁「What will happen to your patent protection when we leave the EU?(動画)」

【関連記事】
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***更新情報(2019年7月29日)***
出典(6)として、消尽の取扱いに関するイギリス知的財産庁のガイダンス「Exhaustion of intellectual property rights」を追加

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