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[意匠/日本]2019年5月1日以降の出願に適用される改訂意匠審査基準について ~意匠法の改正に伴う今後の意匠審査基準の改訂については検討が開始される~

2019年5月1日以降の出願から、改訂意匠審査基準が適用されている。これは、同じく5月1日施行の改正意匠法施行規則を受けたものであるが、その内容も含めて多くの箇所が改訂されている。そこで、既報で取り上げた点以外で実務上特に重要と考える部分をピックアップしてご紹介する。

1. 一組の図面に係る要件緩和
これは、従来は、いわゆる六面図の提出が必須であったものを、図面数に拘らず、意匠の創作の具体的な内容を特定できれば、意匠が適切に開示されたものとして取り扱うこととしたものである。また、図面において開示されていない範囲の形態は意匠登録を受けようとする部分として取り扱わず、図面に表された部分についての部分意匠として取り扱われることになった。

これを踏まえて、審査基準では各所に上記趣旨の説明が入り、また具体例が追加されている。

1_gakubuchi

例えば上図は「額縁」の意匠(PDF)であり、背面図が提出されていないが、この場合、背面図を破線で表して出願した場合と同じ取り扱いがなされる。ただし、図面を省略することで、意匠登録を受けようとする部分の形状が不明確になるような場合には、「意匠が具体的でない」ものとして拒絶理由通知を受けることになる。

2_kabin1 3_kabin2

例えば、この「花瓶」の意匠(PDF)では、左の3図だけ提出しても、底面部の形状が右のように複数の場合が考え得るため、一の意匠と特定できず、意匠が具体的でないものとされる。

以上のように、6面図の要件が緩和されたことで多少の図面の削減にはつながるが、実務的には、意匠の形状が明確となるように図面をしっかり出していくことが肝要であることに変わりはない。

2. 意匠登録を受けようとする部分が物理的に分離している場合に「一意匠」と認められる場合の事例追加
従来、意匠登録を受けようとする部分が物理的に分離していても、当該部分に形態的一体性や機能的一体性があれば一意匠として取り扱っていた。今回の改訂では意匠登録を受けようとする部分以外の部分(つまり破線部)に着目し、破線部が「ある用途及び機能を果たすための部分や、形態的なまとまりを有する部分」である場合には、一意匠として取り扱う事が明記された。

4_mechanical-pencil

上のシャープペンシルの例(PDF)では、クリップ部やグリップ部は、それぞれが機能的にまとまりがある部分であるため、これらの部分に隔てられて意匠登録を受けようとする部分が物理的に分離していても、一意匠として認められる。

まだまだ一意匠として認められる場合は限定的だが、物理的に分離した部分についての部分意匠での保護のニーズは高いため、このニーズに合うように若干の緩和がなされたと言える。

3. 全体意匠と部分意匠との類否判断
今回、最も「気になる」改訂内容である。審査基準「71.9.2 全体意匠と部分意匠との類否判断」(PDF)では、以下のすべてに該当する場合、全体意匠と部分意匠が類似する旨、記載されている。

  1. 全体意匠に係る物品と部分意匠の意匠に係る物品が同一又は類似であること
  2. 全体意匠の用途及び機能が部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能と同一又は類似であること
  3. 全体意匠の意匠登録出願の形態と部分意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の形態が同一又は類似であること
  4. 全体意匠の物品全体に対し、部分意匠の意匠登録出願の「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品全体の形態の中での位置、大きさ、範囲が、当該意匠の属する分野においてありふれた範囲内の相違であること
5_gakubuchi

改訂に関する特許庁の当初の資料(PDF)では背面部が全て破線で表されたものが使われていたが、改訂審査基準では上記の例に変更されている。相違点は、背面側の「留め具」が破線であるか否かのみである。つまり、背面図全体が破線で表されたような場合までは、全体意匠と部分意匠が類似になることはないと考えられる。ごく一部の小さな部品等を破線で表した部分意匠が全体意匠と類似とされる、という風に考えておく方がよいであろう。

ただし、この基準改訂により、全体意匠と部分意匠を「関連意匠」とすることも可能となった。そのため、意匠登録を受けようとする部分の形状も変更しながら、尚且つ、一部分を破線にしながら関連意匠を組むことにより、より少ない出願数で効果的な意匠権利網を構築できる場合もあると思われる。

創英の意匠担当者は、もちろん、これらの点も踏まえて総合的に出願の戦術のご提案をさせて頂きます。

4. 意匠法改正に伴う今後の審査基準改訂について
冒頭で述べたとおり、上記1.~3.は2019年5月1日施行の改正意匠法施行規則を受けたものであり、5月17日に公布された「特許法等の一部を改正する法律案」における意匠法の一部改正の内容は反映されていない。当該意匠法の改正に伴う今後の意匠審査基準の改訂については、7月24日に開催された産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会第15回意匠審査基準ワーキンググループにおける議題に含まれており、配付資料の資料2(PDF)では下記のように、意匠審査基準の改訂が必要となる項目と想定される主な論点案、スケジュール案等が示されている。

○改正意匠法に則して検討を行う事項
意匠審査基準の改訂が必要となる項目と想定される主な論点案
(ⅰ)建築物の保護対象化
(ⅱ)画像の保護対象の拡充
(ⅲ)内装意匠の保護対象化
(ⅳ)関連意匠制度の拡充
(ⅴ)創作非容易性水準の明確化
(ⅵ)物品区分の扱いの見直し
(ⅶ)組物の部分意匠の導入
(ⅷ)意匠登録を受けることができない意匠(第5条)の規定の見直し

○意匠審査基準の構成及び記載内容の明確化・簡潔化のための検討

○今後の検討スケジュール案
2019年11月頃開催予定の第18回WGにて報告書案を取りまとめ、その後、意見募集を実施予定

また、議事要旨によれば、意匠法改正に伴う改訂の検討のほかにも、上記にも含まれているように、全体構成の見直し、「創作非容易性」に係る意匠審査基準の改訂等に関する検討が進められる模様であり、今後の動向が注目される。

【出典】
特許庁「意匠審査基準
特許庁「意匠審査基準の一部改訂について
特許庁「意匠法施行規則及び意匠登録令施行規則の一部を改正する省令(平成31年4月26日経済産業省令第49号)
特許庁「平成30年度意匠制度の改正に関する説明会資料意匠制度の開示要件の在り方等に関する意匠審査基準の改訂について(PDF)」
特許庁「産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会意匠審査基準ワーキンググループ

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