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[特許/台湾]知的財産事件審理法の改正~訂正の再抗弁~

 知的財産事件審理法(中国語:「智慧財產案件審理法」)が改正された(施行日:2023年8月30日)。広範囲の改正となり、当法が施行されて以来の最大の改正であるといわれている。本稿では、本改正で増設された第43条(いわゆる「訂正の再抗弁」についての規定)の要点を紹介する。

1.従来の問題点
 当事者(被疑侵害者)によって撤消理由(無効事由)が主張された場合、専利権者にとっては専利権範囲の訂正による無効事由の排除(通称「訂正の再抗弁」又は「対抗主張」)が最も主要な訴訟防御手段の一つである。専利権者が訂正の再抗弁のために専利専属機関(特許庁に相当)に対して訂正申請をした場合、これまでは、裁判所が訂正の合法性について判断してもよい旨が規定されていなかったので、裁判所は、原則、専利専属機関の判断結果を待って審理を続行していた。しかし、このような場合には、専利専属機関による判断結果が出るまでは裁判の審理が中断されるため、裁判の遅延が問題となっていた。第43条では訂正の合法性について判断する権限を裁判所にも与える旨が規定され、これにより、上記の問題の緩和が図られた(出典2を参照)。

2.裁判所による審理
 第43条では、裁判所は、専利権者が専利専属機関に対して訂正申請をした場合、訂正の合法性を自ら判断することができる旨が規定され(同条第4項)、裁判所は、訂正が合法であると判断した場合、訂正後の専利権範囲に基づいて本案を審理しなければならない旨が規定された(同条第6項)。なお、裁判所は、訂正の合法性について判断する権限を有することとなったが、専利専属機関の意見を求めることもできると規定されている。※1

 裁判所は、訂正の合法性の認否により以下のように審理することとなる。

 これにより、裁判所は、訂正の合法性について専利専属機関の判断結果を待つことなく、審理を続行することができるようになった。
※1:同法第44条第1項に規定されている。
※2:当該事項は、同法第43条第6項の「理由」(日本でいうところの工業所有権逐条解説に相当)に記載されている。

3.訂正の再抗弁の要件
(1)専利専属機関への訂正申請
 上述のように、訂正の合法性について判断する権限が裁判所に与えられたことで、専利権範囲が不安定な状態になるといった不都合が起こる可能性があるが、その点は訂正の再抗弁の要件で担保されている。以下、起こりうる不都合及び当該不都合を担保する訂正の再抗弁の要件について説明する。

・同一の専利権に係る複数の事件
 同一の専利権に係る複数の事件において、例えば、第1事件の第1当事者が第1無効事由を主張し、第2事件の第2当事者が第2無効事由を主張した場合、専利権者は、第1事件においては第1無効事由を排除するために第1訂正を行い、第2事件においては第2無効事由を排除するために第2訂正を行うことが想定される。専利専属機関への訂正申請を経ていない第1訂正及び第2訂正に基づく主張等が裁判所によって認められると、専利専属機関によって公告された権利に加えて、裁判所が認めた第1訂正に係る権利及び第2訂正に係る権利が存在することとなる。したがって、第三者にとっては専利専属機関によって公告された専利権内容が依然として専利権範囲の根拠となっているところ、専利権範囲が不安定な状態になる。そのため、専利権者が訂正の再抗弁を主張する場合には、当該主張に先立って専利専属機関に対して訂正申請をしなければならない旨が規定された(同条第5項)。

・同一の事件
 訂正後の専利権範囲による無効事由の排除が許されると共に、訂正前の専利権範囲に基づく請求又は主張(権利行使)も許されると、同一の事件において専利権範囲が不安定な状態になるだけではなく、合理性にも欠ける。そのため、専利権者が訂正の再抗弁を主張する場合には、訂正後の専利権範囲に基づいて主張等をする旨を裁判所に対して陳述しなければならない旨が規定された(同条第1項)。

(2)例外
 不責事由がある場合の例外も規定された(同条第2項)。例えば、専利権者が訂正申請をすることができない等の場合であって訂正を許可しないと明らかに公平性が損なわれる場合には、専利専属機関に対して訂正申請をしなくとも直接裁判所に対して訂正の旨を陳述することができると規定された。

 3.当事者への通知
 専利権者は、訂正の再抗弁を主張する場合、訂正の根拠等を書面に記載し、当事者に通知しなければならない旨が規定された(同条第3項)。

5.効果
 本改正では、訂正の合法性について判断する権限が裁判所に与えられると共に、訂正の再抗弁の要件として専利専属機関への訂正申請という原則が明記された。これにより、裁判の迅速性の確保及び専利権範囲の安定化が図られると思われる。

6.日本の実務との対比
 日本においては、訂正の再抗弁についての条文上の明文規定はないものの、裁判例によれば訂正の再抗弁の要件は以下とされている。

①特許権者が訂正請求又は訂正審判請求を行ったこと(例外もある※出典3,4参照)
②当該訂正請求又は訂正審判請求が適法であること
③その訂正により無効理由が解消されたこと
④被疑侵害者の製品又は方法が訂正後の特許請求の範囲にも属するものであること

 台湾の本改正との対比として、要件①と②について比較する。まず要件①については、日本でも原則として訂正請求又は訂正審判請求が必要なことから、原則訂正申請が必要となった台湾の実務と概ね一致する。また要件②についても、日本特許法第104条の3の立法趣旨(紛争の迅速的解決)に照らして、日本でも裁判所が訂正の合法性について自ら判断してきたことから、裁判所が訂正の合法性についての判断権限を有することとなった台湾の実務と概ね一致する。

 このように、台湾の実務は日本の実務に近くなったといえるが、そもそも日本の実務も参考にして、訂正の合法性について判断する権限を裁判所に与えることとしたようである。

7.条文
 第43条の条文の日本語による翻訳文(筆者訳)は下記のとおりである。

第43条
1 当事者が第四十一条第一項の規定に基づいて専利権が撤消理由を有する旨を主張又は抗弁した場合、専利権者は、専利権範囲の訂正を専利専属機関に対して申請したとき、訂正後の専利権範囲に基づいて請求又は主張する旨を裁判所に対して陳述しなければならない。
2 前項の場合において、専利権者は、自己の責めに帰することができない事由により専利専属機関に対して訂正申請をすることができないときであって訂正を認めない場合には公平を失するとき、専利権範囲を訂正する旨及びそれをもって請求又は主張する旨を裁判所に対して陳述することができる。
3 前二項の場合において、専利権者は、専利権範囲の訂正の根拠となる事実及び理由を書面に記載し、当事者に通知しなければならない。
4 第一項、第二項の場合において、裁判所は、専利権範囲の訂正の合法性について自ら判断し、裁判の前に法律上の見解を表明し且つ心証を適宜開示することができる。
5 第二項の規定を除いて、専利権者は、専利専属機関に対して訂正申請をしなかった場合又は訂正申請を取り下げた場合、訂正後の専利権範囲に基づく請求又は主張をすることができない。
6 裁判所は、第四項に基づいて専利権範囲の訂正が合法であると判断した場合、訂正後の専利権範囲に基づいて本案を審理しなければならない。

[出典]
1.「台湾法規資料庫
2.台湾弁護士会「淺談智慧財產案件審理法之修法-論專利民事侵權事件之更正再抗辯與專利舉發案之更正審議
3.日本弁理士会「訂正の再抗弁を主張するために訂正審判の提起は不要であるとした知財高裁判決
4.INPIT独立行政法人工業所有権情報・研修館「特許権侵害訴訟における対抗主張(「訂正の再抗弁」)の実務とその問題点

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