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[特許]米国特許法改正

  2011年9月16日、オバマ大統領が米国特許法改正案「Leahy-Smith America Invents Act」に署名し、法律(以下「新法」という)として成立した。先願主義への移行や異議申立制度の導入など従来の米国特許法(以下「旧法」という)を大きく変えるものであり、全体で37項目に及ぶ変更が行われている。主な改正点は以下の通りである。項目により施行日が異なるため注意が必要である。

1.先願主義(Sec. 3):(施行日:2013年3月16日)

<新規性>

§102(a)(1):日本特許法第29条と類似

 有効出願日(優先権があれば優先日)を基準とし、それ以前に特許を付与されていた、刊行物に記載されていた、公然使用、販売など公衆に入手可能な状態であった場合、先行技術となる。先行技術としての地理的範囲は国内外を問わない。

§102(a)(2):日本特許法第29条の2と類似/旧法第102条(e)と類似

有効出願日前に「他の発明者」により出願され、その後特許され又は出願公開された出願に記載された事項は、先行技術となる。先行技術としての引例の基準日は、ヒルマードクトリンが廃止されることで、米国出願日又はパリ条約による優先日となる。PCT出願も先行技術となり得ることは変わりないが、その要件から「英語で公開され」の要件が削除されることで、公開の言語に関わらず先行技術になり得ることになった。

<例外規定>

§102(b)(1):グレースピリオド

発明者により有効出願日から1年以内になされた「開示」によっては、新規性を失わない。

 また、発明者が発明を「開示」した後、何人かによって新たに「開示」されても、その新たな開示が有効出願日の1年以内であれば先行技術とはみなされない。 

§102(b)(2):102(a)(2)の例外

 先行技術としての特許および出願に開示された事項が、(1)発明者から得られたものである場合、(2)これら特許および出願の有効出願日前に発明者によりその発明が既に開示されている場合、(3)これら特許および出願の有効出願日前にその発明が同一人に所有されるか、または同一人に譲渡する義務がある場合、先行技術としての地位を喪失する。 

<非自明性>

§103:

 非自明性の判断基準も、発明日から有効出願日へと改正された。

 なお、102(a)(2)に規定する出願や特許に基づいても非自明性が判断されることに留意する必要がある。 

2.冒認手続(Sec. 3):(施行日:2013年3月16日)

§135:

インターフェアランス手続きは廃止され、代りに真の発明者を審理(冒認出願か否か審理)する手続きが設けられた。 

3.特許付与後レビュー(Sec. 6):(施行日:2012年9月16日)

§321-329:

特許付与後9か月以内に、第三者は特許付与に対するレビュー(異議申立)を申立することができる。匿名での申立はできない。申立理由は、102条(新規性)、103条(非自明性)、101条(発明性)、112条(記載要件)、251条(再発行)に基づく。訴訟と比べて限定的なディスカバリ手続が導入される。 

4.当事者系レビュー(Sec. 6):(施行日:2012年9月16日)

§311-319:

 特許付与後9か月以降であれば、第三者は当事者系レビューを請求することができる。請求理由は、102条(新規性)と103条(非自明性)でいずれも文献に基づくものに限られる。訴訟と比べて限定的なディスカバリ手続が導入される。これにより、旧法の当事者系再審査制度は廃止され、一方で査定系再審査制度はそのまま維持される。 

5.特許付与前情報提供手続(Sec. 8):(施行日:2012年9月16日)

§122(e):

許可通知の発行前であって、出願公開後6か月、或いは、最初のOA発行日の何れか遅い日までに、何人も文献に基づく先行技術を審査官に対して提出することができる。提出に際しては、先行技術の関連性の説明と、料金納付が必要となる。 

6.補充審査手続(Sec. 12):(施行日:2012年9月16日)

§257:

審査段階で特許庁に提出されなかった情報に基づいて、既に付与された特許について補充審査を請求することができる。このような追加情報を補充的に審査することで、訴訟において特許が権利行使不能となるリスクを排除することができる。ただし、審査段階で生じた不衡平行為を治癒するものでないため、意図的に重要な情報を提出せずに特許を取得した後、補充審査において審査官に審査させることはできない。 

7.先使用による抗弁(Sec. 5):(施行日:2011年9月16日)

§273:

旧法ではビジネス方法特許についてのみ先使用による抗弁を認めていたが、新法では全技術分野に先使用の抗弁を認める。先使用の抗弁が認められるためには、有効出願日の1年以上前に米国において商業的な使用又は販売していたことを、明白かつ説得力ある証拠で証明しなければならない。またこの先使用は、102条(b)のグレースピリオドが適用されるような特許に対しては、発明者による開示から1年以上前に米国において商業的な使用又は販売していたことを証明しなければならない。 

8.ベストモード要件の緩和(Sec. 15):(施行日:2011年9月16日)

§282(3):

112条第1項のベストモード要件は、審査の段階で拒絶理由になり得ることは変わりないものの、訴訟における無効の抗弁として主張できなくなった。 また、特許付与後レビュー、当事者系レビュー、特許付与前情報提供手続においても、ベストモード要件違反を主張することはできない。 

9.バーチャル特許表示(Sec. 16):(施行日:2011年9月16日)

§287(a):

新法では、「Patent」又は「Pat.」という文字と無料で公衆がアクセス可能なインターネット上のアドレスを物品に表示することで、バーチャルな特許表示を可能とした。これにより、特許表示の管理が容易になる。 

10.虚偽表示に対する制裁の緩和(Sec. 16):(施行日:2011年9月16日)

§292(a)-(c):

虚偽表示があると、旧法では第三者が罰金を求める訴訟を提起することができた。このとき、罰金の半分は国庫に入るものの、残り半分は当該第三者の取り分となることから、虚偽表示に基づく訴訟が多く提起されていた(マーキングトロール問題)。

新法では、米国政府のみが罰金に基づく虚偽表示者に対する訴訟を提起することができることとし、第三者は民事訴訟において虚偽表示により生じた実損害額の賠償を求める訴訟を提起できるのみにした。また、新法では特許が切れた特許番号を表示し続けていることは虚偽表示に当たらないものとした。 

11.優先審査(Sec. 11/25):(施行日:(A)2011年9月26日/(B)2012年9月16日)

§41:

4800ドルを支払うことにより、出願人は優先審査を受けることができる。優先審査のためには、独立クレームが3個以内で全クレーム数が30以内である必要がある(施行日(A))。

§2(b)(2):

また、米国の経済や競争力にとって重要な製品、製造工程や技術に関する出願の審査について、出願人の請求により追加費用無しに優先審査を受けることができる(施行日(B))。 

12.発明者の宣誓書(Sec. 4):(施行日:2012年9月16日)

§115:

発明者が出願時の宣誓書に署名を拒んだり、発明者が死亡等で署名できなかったりする場合に、譲受人が代替のステイトメントを提出することができる。 

13.譲受人による出願(Sec. 4):(施行日:2012年9月16日)

§118:

発明について権利を有する譲受人は、その名の下で出願し特許を受けることができる。 

14.弁護士の助言(Sec. 17):(施行日:2012年9月16日)

§298:

訴訟において侵害者が弁護士の助言(鑑定)を得ていなかったという事実を、故意侵害あるいは侵害行為を誘発する意図を証明するために利用することはできない旨が明確に規定された。これにより、2007年のCAFC大法廷におけるIn re Seagate判決と整合が図られた。 

15.マイクロエンティティの設定(Sec. 10):(施行日:2011年9月16日)

§123:

従来の大規模事業体(ラージエンティティ)、小規模事業体(スモールエンティティ)の区分のほかに、新たにマイクロエンティティの区分が追加される。マイクロエンティティに該当する場合、特許庁費用が75%免除される。

マイクロエンティティに該当するためには、

(1)小規模事業体の要件を満たす者であること、

(2)過去の米国出願で発明者となっている件が4件以内(雇用契約による譲渡を行っている件を除く)であること、

(3)世帯収入がアメリカの年間平均世帯収入の3倍を超えないこと。

(4)アメリカの年間平均世帯収入の3倍を超える収入のある団体へ譲渡をしていない、あるいはする予定がないこと、を満たす必要がある。

16.ビジネスモデル特許の経過措置(Sec. 18):(施行日:2012年9月16日)

8年間の経過的特許付与後レビュー期間を設け、一部のビジネス方法特許の有効性を特許付与後レビュー手続において判断する。申立人は、当該特許に対する特許侵害訴訟で訴えられた被告に限定される。この場合、申立期間は特許付与後9ヶ月以内に限定されるものではない。 

17.除外される特許対象(Sec. 14, 33):(施行日:2011年9月16日)

人体組織(human organism)又はこれを一部に含む発明が特許の対象から除外される。また、納税義務を減らしたり、繰り延べしたりするような税戦略上の発明は特許性がないとされる。 

18.サテライトオフィス設立(Sec. 23-24):(施行日:2011年9月16日から3年以内)

新法成立後3年以内に、米国特許商標庁は3つのサテライトオフィスを設立する。一つは、ミシガン州のデトロイト支所であり、Elijah J. McCoy米国特許商標庁と命名されている。 

19.サーチャージ(Sec. 11):(施行日:2011年9月26日)

第41条(a)(b)(d)(1)(特許出願、審査、登録等の料金、維持年金、特許調査等の料金)及び第132条(b)(継続審査請求(RCE))に規定される全ての手数料に対して、15%のサーチャージが課せられる。

20.電子出願へのインセンティブ(Sec. 10):(施行日:2011年9月16日から60日後)

電子出願を利用しない紙出願に対して400ドルのペナルティ料が課される。

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