[特許/米国]結果志向の機能的表現であり特許不適格と判断されたソフトウェアクレームに関する判例 ~U.S. Patent No. 7,679,637 LLC v. Google LLC~
本稿では、「タイムシフト機能」を備えたウェブ会議システム(Time-shifted Web Conferencing)に関する特許適格性が検討されたCAFC(Court of Appeals for the Federal Circuit、連邦巡回区控訴裁判所)によるU.S. Patent No. 7,679,637 LLC v. Google LLC判決(判決日:2026年1月22日)を紹介する。米国特許第7,679,637号(US’637特許)のクレームに係るウェブ会議システムは、動画データストリームの視聴について、リアルタイム、進行中の遅延視聴、会議終了後の視聴のいずれにも対応させ、参加者が再生速度を調整できるものである。
1.本発明のクレーム
US’637特許の独立クレーム2および7は、本発明を代表するものとみなされた。クレーム2は以下の通りである。
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2. A web conferencing system comprising: (a) a first client application allowing at least one presenting participant to share computer screen video, (b) said first client application also being arranged to allow said presenting participant to share at least one data stream selected from the group consisting of chat data, documents, web pages and white-boarding session, (c) storage means for recording said computer screen video and said data stream, and (d) a second client application allowing at least one observing participant to sense said computer screen video and said data stream live, (e) said second client application also being arranged to allow said observing participant to selectively sense a previously presented and recorded part of said computer screen video and said data stream while said presenting participant is sharing a current part of said computer screen video and said data stream, (f) said second client application also being arranged to allow said observing participant to selectively sense a previously presented and recorded part of said computer screen video and said data stream after said presenting participant has finished sharing a said computer screen video and, said data stream whereby said web conferencing system is able to simultaneously record said computer screen video and said data stream and allow said observing participant to sense current and previously presented parts of said computer screen video and said data stream. |
※強調するために筆者が一部を赤の太字とした。
2.特許適格性に関するAlice-Mayoテストの枠組み
米国特許法(35 U.S.C. § 101)に基づき、発明は司法上の例外に該当しない限り、特許権の付与対象とされる。たとえば、抽象的概念は司法上の例外とされ、単なる抽象的概念の記載にとどまると認定されたソフトウェア関連のクレームは、35 U.S.C. § 101の下で特許適格ではないとされる。クレームが特許適格かどうかを判断するにあたり、裁判所は最高裁判所のAlice Corp. v. CLS Bank Int’l(2014)およびMayo v. Prometheus(2012)の判決で確立された2ステップの枠組みを適用する。この2ステップの枠組みはAlice-Mayoテストとも呼ばれる。
Alice-Mayoテストのステップ1では、裁判所はまず、クレームが司法上の例外(例:抽象的概念)を「対象としている」かを判断する。クレームが抽象的概念を記載していても、その抽象的概念を実用的な適用へと統合する追加要素を含んでいる場合には、そのクレームは司法上の例外を対象としているとはみなされず、特許適格と判断される。ソフトウェアの革新を扱う事件では、クレームがコンピュータ能力や他の技術における改良をもたらす特定の解決策を記載している場合に、実用的な適用が認められ得る。
クレームが司法上の例外を対象としていると判断された場合、裁判所はAlice-Mayoテストのステップ2に進む。ステップ2では、クレームが、司法上の例外それ自体を「有意に上回る(significantly more)」ものといえる「発明的概念(inventive concept)」とみなし得る追加要素を記載しているかを判断する。例えば、汎用的・従来型のコンピュータ機能を用いて実装したにすぎない抽象的概念以上のものを、クレームに記載していなければならない。
3.ステップ1:クレームは司法上の例外を対象としているか?
US’637特許の特許適格性を評価するにあたり、CAFCはソフトウェアの革新を伴う事件では、ステップ1の検討はしばしば、クレームが特定の主張された改良点に焦点を当てているかどうかに帰着すると指摘した。
(1)結果志向の機能的表現
CAFCは、US’637特許の独立クレーム2に関して、以下のことを記載していると指摘した(上述したクレーム2の赤の太字部分参照)。
- 第1および第2のクライアントアプリケーションが特定の結果を「可能にするように構成されている」こと
- ウェブ会議システムが、コンピュータ画面の動画およびデータストリームの現在の部分と既に提示された部分を同時に記録・視聴「できる」こと
同様の文言は独立クレーム7にも見られた。CAFCは、クライアントアプリケーションが非同期の視聴を可能にするためのデータストリームの操作をどのように実現するのかが説明されていないため、クレームは結果志向の機能的表現であると判断した。
(2)技術的改良の欠如
さらに、CAFCは、技術的改良に関し、以下のように判断した。
- 明細書の記載からは、2つのクライアントアプリケーションと複数のデータストリームの使用が、発明者が直面したいかなる問題に対する技術的解決策であったことは示唆されていない
- むしろ、記載された解決策は既知のタイムシフト機能をウェブ会議システムに適用して、参加者が他の参加者の合流を待つことや、プレゼンテーションの一部を見逃すことに起因する「非効率」を解消しようとするものに過ぎない
具体的には、CAFCは、クレームされたデータストリームに類似するとみなされる音声ストリームの時間スケールを操作する既知のアルゴリズムの例を挙げているにすぎない特許明細書の部分に言及した。
CAFCはAlice-Mayoテストのステップ1に関し、結果志向の機能的表現の存在と特定の技術的改良を具体化していない点を踏まえ、US’637特許のクレームは抽象的概念を対象とするものと判断した。
4.ステップ2:クレームは、司法上の例外を有意に上回る発明的概念を記載しているか?
(1)発明的概念の不在
CAFCは、発明的概念に関し、以下のように判断した。
- 明細書は、時間スケールの変更が、関連する音声分野における既存の(市販の)アルゴリズムを用いて実装された従来の構成要素であることを示している
→クレームされたクライアントアプリケーションは従来周知の構成要素であり、従来のデータストリームを通常の機能に従って操作しているにすぎない - クレームが、主張された結果をどのように達成するかの具体的な実装を示さず、結果志向の機能的表現を用いている
→抽象的概念をコンピュータ上で実装するように構成された一般化されたソフトウェア構成要素のみからなるシステムクレームには発明的概念がない
CAFCはAlice-Mayoテストのステップ2を満たすには不十分であると結論づけた。
(2)先行判例との比較
①本判決と異なるとした判決
CAFCは、本判決はContour IP Holding LLC v. GoPro, Inc.(CAFC、判決日:2024年9月9日)とは異なるとした。当該判決では、高画質と低画質の動画ストリームを並行して生成し、低画質ストリームをリモートデバイスへ転送するという特定手段によりPOVカメラ技術を改良することを開示したクレームが特許適格であると認められている。
②本判決と類似するとした判決
CAFCは、本判決はHawk Technology Systems, LLC v. Castle Retail, LLC(CAFC、判決日:2023年2月17日)に類似するとした。当該判決でも争点となったクレームは複数のデータストリームの操作を含んでいたが、主張される改良を具体化するための特定の解決策を記載していなかった。
5.望ましい結果について単なる記載にとどめないこと
本判決は、ソフトウェア関連発明の出願人に対し、米国の特許適格性に関するAlice-Mayoテストを踏まえて特許適格と判断されるためには、以下の点が重要であることを想起させる。
- クレームされた機能がどのように実現されるのかを説明できる程度に、十分かつ詳細な技術的特徴をクレームに記載すること
- 少なくとも明細書においてクレームの特徴を技術的改良と関連づけ、技術的改良をもたらす特定の解決策をクレームすること
[出典]