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知財判決ダイジェスト

特許 令和6年(行ケ)第10100号「車両シートに取り付けるためのチャイルドセーフティシート又はベビーキャリア及びそのようなシートのためのサイドインパクトバー」(知的財産高等裁判所 令和7年10月8日)

【事件概要】
 特許無効審判における訂正請求のうち、明細書【0008】の「linear」の訳語「直線的」を「直接的」に改める訂正を誤訳訂正として認めた特許庁審決を、知財高裁が取り消した事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 外国語でされた国際出願の原文に記載された「linear」について、本件明細書【0008】の訳語「直線的」を誤訳訂正として「直接的」に改めることが許容されるか。

【結論】
 外国語特許出願に係る特許の無効審判請求における訂正請求において、特許法134条の2第1項ただし書2号に定める誤訳の訂正に当たるためには、① 国際出願日における国際出願の明細書、(特許)請求の範囲又は図面(特許法184条の19。以下「原文」という。)の記載と、設定登録時(訂正審判による訂正があれば訂正後)の明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の意味が、翻訳の誤り(誤訳)により異なること、② 訂正後の記載は、原文の記載の意味を表すものとして、両記載の意味が一致すること、の二つの要件を満たすことが必要であると解される。

…これを本件についてみると、本件訂正に係る訂正事項7における訂正は、原文…における「linear」が「直線的」と翻訳されていた本件訂正前の本件明細書等の段落【0008】の記載を、本件訂正により、誤訳の訂正を目的として「直接的」とする訂正事項を含むものであった…。被告は、…上記訂正事項に関し、「直線的」という単一の訳語のみに着目し、それ自体が誤訳だったために「直接的」という訳語に訂正したものではなく、全体として意味内容が原文に忠実となることを目的としたものであると主張している。

 しかしながら、辞書によれば、「linear」は、「1a)直線状の、線状の」という意味を有すると認められる…。そして、被告は、前件訂正請求(★注1)…において、段落【0008】の上記「直線的」に係る記載を訂正の対象としていないどころか、…誤訳の訂正を理由とする取下げみなし訂正請求(★注2)の訂正事項Ⅻにおいて、本件該当原文…の2か所の「linear」という文言を「直線的」と訳すことを明示的に内容に含む訂正を求めており、それが原文の正しい翻訳である旨を主張していたところである。このような事情に鑑みれば、原文の「linear」という文言を明細書において「直線的」と訳した場合に、原文の記載と明細書の記載の意味が異なるとは認められない。他方、「直線」という語と「直接」という語は意味が異なるから…原文の「linear」という文言を明細書において「直線的」と訳す場合には、原文の記載と明細書の記載は意味が異なり、これらが一致するとは認められない。

 そうすると、訂正事項7…においては、訂正前の本件明細書等の「直線的」の意味が、翻訳の誤りにより原文の「linear」の意味と異なるものということはできないから、上記…要件の①を満たすものといえない上に、訂正後の記載が原文の記載の意味を表すものと一致するものともいえないから、同要件の②も満たさない。

 以上によれば、…訂正事項7は特許法134条の2第1項ただし書2号に定める誤訳の訂正には当たらないと認められる。

※特許無効審判では3回訂正請求が行われた。(★注1)は1回目の訂正請求、(★注2)は2回目の訂正請求である。

【コメント】
 被告は「上記訂正事項に関し、『直線的』という単一の訳語のみに着目し、それ自体が誤訳だったために『直接的』という訳語に訂正したものではなく、全体として意味内容が原文に忠実となることを目的としたものである」と主張したが、裁判所は、「被告の主張する上記内容は、原文に記載された事項ではなく、原文の記載に照らして被告が解釈した内容というほかない。しかも、被告は、取下げみなし訂正請求においては、…上記とは全く異なる内容を、原文に記載された内容であると主張していたものである。そうすると、本件訂正事項は、原文の記載と異なる翻訳による誤りを訂正するものではなく、被告の現時点での解釈に沿うように訂正することを目的としたものといえ、誤訳の訂正として許容されるものとはいえない。また、被告が主張するような、訂正前の『直線的』とした場合には意味内容が不明瞭であり、訂正後の『直接的』とすることで明確で原文に忠実となるといえる事情も認められない。」として被告の主張は採用されなかった。誤訳訂正は、原文と日本語記載の意味照合を厳密に求め、被告の主張の一貫性も重要視することを示す実務上示唆に富む判決である。

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