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知財判決ダイジェスト

特許 令和7年(行ケ)第10075号「2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリフルオロプロペン、2-クロロ-1,1,1,2-テトラフルオロプロパンまたは2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」(知的財産高等裁判所 令和8年5月13日)

【事件概要】
 分割出願に係る本願発明1(特定の組成物)について、分割出願が適法でないとの判断を前提に、原出願の公表公報(引用文献1)を先行技術としてその新規性を否定するとともに、サポート要件にも適合しないと判断した審決が維持された事例
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 分割出願の適法性(特許法44条1項:原出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内か否か)

【本願発明1について】
 本願の請求項1の記載は次のとおりであり、当該請求項1に係る発明(本願発明1)を組成する化合物は別表のとおりである。

 「77.0モルパーセント以上のHFO-1234yfと、

 0.2モルパーセント以下のHFC-143aと、

 HFC-23、HFO-1141、HFC-245cb、HFC-254eb、HCFC-244bb及びHCFO-1233xfからなる群から選択される少なくとも1つの追加の化合物と、

 含有する組成物。」

 (別表)

【判示内容】
 裁判所は、分割出願の適法性について、概略次のように判示して原告の上記争点に係る主張を排斥した。

 「特許出願人が分割出願(特許法44条1項)をした場合、その出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなされること(同条2項本文)に照らすと、分割出願の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項は、もとの特許出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内であることを要するものと解される。」

 「原出願明細書等には、・・・本願発明1の組成物について明示的な記載はないし、『HFO-1234yf』及び『HFC-143a』をそれぞれ一定の割合の含有量とすることや、当該組成物が『HFO-1234yf』以外の化合物を含有することの技術的意義に関する記載も示唆もない。 そうすると、原出願明細書等の記載により導かれる技術的事項は、HFO-1234yf等の低地球温暖化係数を有する熱伝達組成物として有用な化合物を調製する際に、特定の追加の化合物が存在し得るという点にとどまるものと解するほかなく、したがって、原出願明細書等に記載された組合せと異なる組成物を特定することは、新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ない。」

 「原出願明細書等の実施例15・・・は、『77.0モルパーセントのHFO-1234yf』、『85.0モルパーセントのHFO-1234yf』あるいは『82.5モルパーセントのHFO-1234yf』と、『0.2モルパーセント以下のHFC-143a』と、『追加の化合物』とを含有する組成物について開示するにとどまり、本願発明1の組合せの組成物のうち、少なくとも『85.0モルパーセントを超えるHFO-1234yf』と、『0.2モルパーセント以下のHFC-143a』と、『追加の化合物』とを含有する組成物を開示するものではない。」

 「原告は、当業者が、触媒を用い、温度調整を行うことにより、HFO-1234yfへの変換効率をより高められることを容易に認識できることや、蒸留を用いて、生成物混合物からHFO-1234yfを分離回収することに困難はないことからすると、原出願明細書等には、85.0モルパーセントより高いモルパーセントのHFO-1234yfを含有する組成物について開示がされている旨の主張もするが、・・・仮に、当業者において、その分離回収が可能であったとしても、・・・原出願明細書等に、本願発明1の組成物について開示があるということはできない。」

 「以上によれば、本願発明1は、原出願明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえず、本願は、原出願に基づき適法に分割出願されたものともいえない。」

 

【コメント】
 累次分割された出願において、原出願の実施例のデータから特定の数値範囲や化合物の組み合わせを抽出して本願の発明特定事項としたとき、これが「新たな技術的事項を導入するもの」にあたるか否かが争点となった事案である。裁判所は、分割の適法性については、その組み合わせや数値範囲の技術的意義が原出願に記載・示唆されていないことを理由に適法でないと判断する一方で、原出願の実施例に本願発明の範囲内の組成が示されていることをもって本願発明の新規性を否定した。

 特許出願の分割について、特許法は「特許出願人は・・・二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」(44条1項)と規定するが、原出願に発明が「包含」されているか否かの具体的な判断規定はない。この点、東京地判平成16年4月23日・平成15年(ワ)第9215号事件は、分割の実体的要件と補正の要件とは同じであると判示する[i]。また、特許庁の審査基準も、分割出願の明細書等に記載された事項が原出願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内であるかについては、補正の要件と同じ基準で判断する旨を説明する[ii]。

 補正が新規事項を追加にあたるか否かの判断は、その補正が当初明細書等に記載した事項との関係において「新たな技術的事項を導入するもの」であるか否かにより行われ(知財高判平成20年5月30日・平成18年(行ケ)第10563号事件:ソルダーレジスト大合議判決)、もちろん事案の内容によるが、当初明細書等に具体的な記載がなくても新たな技術的事項を導入するものではないと判断され得る場合がある(例えば、知財高判平成22年1月28日・平成21年(行ケ)第10175号事件、親出願の当初明細書等との関係についてではあるが、知財高判令和2年7月22日・平成31年(行ケ)第10046号事件参照)。その意味において、本判決は、原告に若干厳しい判断のように見えなくもない。

[i] 「分割出願はもとの特許出願の時にしたものとみなされ(同条2項),新規性・進歩性の判断等については分割出願の基になった特許出願時を基準とすることになることなどにかんがみると,出願の分割は補正(特許法17条)と類似した機能を持つものであるといえるから,分割出願をすることができる範囲についても,もとの出願について補正をすることが可能である範囲に限られるものと解すべきであって(補正の要件を欠く場合にも出願の分割をなし得るとすれば,実質的には分割手続により補正の要件を潜脱することを許すことになり,不合理である。)」

[ii] 「分割出願の明細書等が『原出願の出願当初の明細書等』に対する補正後の明細書等であると仮定した場合に、その補正が『原出願の出願当初の明細書等』との関係において、新規事項を追加する補正であるか否かで判断する。」(第VI部第1章第1節 特許出願の分割の要件3.2)

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