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[特許/欧州]UPCのオプトアウトの申請時期に影響を与える命令 Omnia Technologies et al. v Sidel Participations

Omnia Technologies et al. v Sidel Participations事件(以下「Omnia事件」という。)において、統一特許裁判所(Unified Patent Court;UPC)の中央部パリ本部(Central Division, Paris Seat。以下「パリ中央部」という。)は、まだ特許が付与されていない欧州特許出願について提起された非侵害確認訴訟に関し、一定の状況の下でUPCの管轄権を認める命令をした(UPC-CFI-0000799/2026、2026年5月7日。以下「本命令」という。)。そして、UPC控訴裁判所(以下「控訴裁判所」という。)は、2026年9月21日、本命令に対する控訴を棄却する命令をした(UPC-COA-0000090/2026。以下「控訴審命令」という。)。本稿では、本命令および控訴審命令の概要を説明するとともに、オプトアウトの申請時期に与える影響について検討する。

1.従来型欧州特許および欧州特許出願に関するオプトアウト
(1)欧州における特許権取得に関する選択肢
欧州で特許権を取得する方法としては、各国に個別に特許出願を行い、各国の特許庁による審査を経て国内特許を取得する方法と、欧州特許庁(European Patent Office;EPO)に欧州特許出願を行い、EPOによる審査を経て欧州特許を取得する方法がある。後者については、欧州特許の付与後、必要に応じて各国で有効化手続(いわゆるバリデーション)を行うことにより従来型欧州特許として保護を受けることができる。さらに、2023年6月1日の単一特許制度の運用開始後は、欧州特許の付与後に単一効を請求することにより、同制度の参加国(2026年9月現在、18ヵ国)において単一の効力を有する単一特許(Unitary Patent;UP)として保護を受けるという選択肢が加わった。

(2)UPCの管轄およびオプトアウト
UPCは、単一特許だけでなく従来型欧州特許に関しても、侵害、非侵害確認、差止め、無効等の一定の訴訟について専属管轄権を有する。この専属管轄権は、統一特許裁判所協定(Agreement on a Unified Patent Court;UPCA)第32条(1)に規定されており、本件で問題となった非侵害確認訴訟は同条(1)(b)に該当する。また、UPCAは欧州特許出願についても適用される(UPCA第3条(d))。ただし、UPCAの発効から7年間の移行期間(2023年6月1日から2030年5月31日)が設けられている(UPCA第83条(1))。この移行期間は7年を上限に延長され得る(同条(5))。

この移行期間中は、欧州特許出願または従来型欧州特許について、UPCに訴訟が提起されていない限り、特許権者または出願人は、UPCの専属管轄からの除外(オプトアウト)を申請できる(UPCA第83条(3)、UPC手続規則(Rules of Procedure of the Unified Patent Court;RoP)Rule 5.1)。オプトアウトが有効に行われた場合、欧州特許出願または従来型欧州特許はUPCの管轄から除外され、原則として各国の国内裁判所が侵害訴訟や無効訴訟等を扱う。欧州特許出願については、出願公開後にオプトアウトを申請でき、有効に行われたオプトアウトは、付与後の従来型欧州特許にも引き継がれる。また、オプトアウトは、欧州特許出願または従来型欧州特許について国内裁判所に訴訟が提起されていない限り、後に撤回することができる(UPCA第83条(4)、RoP Rule 5.7)。なお、単一特許はオプトアウトの対象とはならない。

(3)従来のオプトアウトの申請時期に関する考え方
前述のとおり、欧州特許出願については出願公開後にオプトアウトを申請できる一方、UPCにおける侵害訴訟や非侵害確認訴訟等は、原則として当該出願に係る特許の付与後に提起されると考えられていた。特許付与後にオプトアウトを申請しようとする場合、申請までの間に第三者からUPCに訴訟を提起されると、UPCA第83条(3)により、その後はオプトアウトの申請ができなくなるおそれがある。そこで、出願人がUPCの専属管轄からの除外を希望する場合には、遅くとも特許付与までにオプトアウトを申請することが推奨されていた。

2.Omnia事件に関する命令
本件の原告は、Omnia Technologies S.p.A.、ACMI S.p.A.およびACMI Labelling S.r.l.の3社(以下「Omniaら」という。)であり、被告はSidel Participations(以下「Sidel」という。)である。Omniaらは、Sidelの2件の欧州特許出願(EP4594194およびEP4624351。以下、付与後の特許を含めて「両件」という。)について非侵害確認訴訟を提起した。時系列は以下のとおりである。


※1:欧州特許条約(European Patent Convention;EPC)規則71(3)の通知は、EPOが特許付与を予定している旨を出願人に通知するものである。出願人が通知された特許付与予定文言を承認し、所定の手続を行った後、EPC第97条(1)に基づく特許付与決定がされる。
※2:予備的異議(preliminary objection)とは、UPCの管轄権等について、本案の審理に先立って異議を申し立てる手続である(RoP Rule 19)。本件では、Sidelは、訴訟提起時点で対象となる欧州特許がまだ付与されていなかったことなどを理由に、UPCの管轄権を争った。
※3:EPC第97条(1)に基づきEPOが特許付与決定をした後、欧州特許公報に特許付与の言及(mention of the grant)が掲載される。特許付与決定は、この掲載日に効力を生じる(EPC第97条(3))。

上記の表のとおり、2026年3月3日にOmniaらが非侵害確認訴訟を両件に対して提起した時点では、両件はいずれも出願係属中であった。2026年5月7日にパリ中央部が本命令を発した時点では、両件は以下の状況であった。

  • EP4594194:欧州特許公報に特許付与の言及が掲載
  • EP4624351:欧州特許公報に特許付与の言及が未掲載(EPC第97条(1)の付与決定済みであるものの欧州特許公報への掲載は2026年5月20日を予定)

両件がこのような段階にあったにもかかわらず、パリ中央部は、以下の判断基準を示した上で、両件についてUPCの管轄権を認めた。

【パリ中央部が示した判断基準】
以下の場合にはUPCが管轄権を有する。

i) 訴訟が提起された後、答弁書が提出される前に、特許付与の言及が欧州特許公報に掲載され、特許付与決定が効力を生じた場合、
または
ii) 訴訟が提起された後、答弁書が提出される前に、EPC第97条(1)に基づく特許付与決定がされたものの、その時点では特許付与の言及がまだ欧州特許公報に掲載されていない場合。

つまり、パリ中央部は、i)およびii)のいずれの場合も、訴訟が提起された後、答弁書の提出時までに少なくともEPC第97条(1)に基づく特許付与決定がされていれば足り、その時点で欧州特許公報への特許付与の言及が掲載されていることまでは必要ないと判断したものといえる。現に本件では、答弁書は2026年5月18日に提出されており、EP4624351についても、その時点でEPC第97条(1)に基づく特許付与決定が既にされていた。

パリ中央部は、こうした結論を導くにあたり、主として次の点を指摘した。

  • 特許付与後にUPCの専属管轄に服する出願について、国内法上、出願段階での手続が認められている場合に、国内裁判所で先に審理が進むリスクを低減できること。
  • 管轄を否定すれば、裁判所はいったん管轄がない旨を宣言しなければならず、特許付与後直ちに新たな訴訟が提起されることになるため、手続効率および比例性の原則に反すること(本件でも、EP4594194については2026年4月22日の公報掲載後直ちに、EP4624351についても2026年5月20日の公報掲載後に、新たな訴訟を提起し得た)。
  • 欧州特許出願については特許付与前の出願段階でもオプトアウトを申請できるため、特許付与前の提訴を認めても、オプトアウトの機会が不当に損なわれるわけではないこと。

また、パリ中央部は、特許が正式に付与される前に侵害訴訟が提起された事案においてもUPCが手続を進めた例(ミュンヘン地方部のNanoString v. 10x Genomics事件、ハンブルク地方部のAlexion v. Amgen事件)を挙げ、自らの判断がこうした実務によって裏付けられるとした。

さらに、Sidelは、本件の判断が、侵害訴訟または仮処分等をUPCに提起し得る客観的に最も早い日は欧州特許の付与日であると述べたブリュッセル地方部のBarco v Yealink事件命令(UPC-CFI-0000582/2024、2025年3月21日)と矛盾すると主張した。しかしパリ中央部は、同命令における判断は仮処分申立ての適時性を検討する文脈で示されたものであり、特許付与前に提起された訴えの許容性に関するものではないとして、これを区別した。

パリ中央部は、こうした判断に基づき、Omniaらによって提起された非侵害確認訴訟についてUPCが管轄権を有すると認定した。上記の表のとおり、Sidelは2026年4月上旬(2026年4月2日、2026年4月8日)に特許付与前のオプトアウトを申請していたが、その時点で既にUPCに訴訟が提起されていたため、パリ中央部は、UPCA第83条(3)およびRoP Rule 5.6に基づき、これらのオプトアウトの申請は効力を有しないと判断した。

3.Omnia事件がオプトアウトの申請時期に与える影響
(1)本命令
本命令は、係属中の欧州特許出願について、以下のことを示したものとして注目される。

  • 特許付与前に提起された非侵害確認訴訟についても、一定の状況の下でUPCの管轄権が認められ得ること。
  • 特許付与決定はされているものの、欧州特許公報への特許付与の言及が未掲載で、その決定が効力を生じる前の段階であっても、UPCがその訴訟について管轄権を有し得ること。

(2)控訴審命令
控訴審命令は、本命令のように、答弁書の提出時までに特許付与決定がされているかという特許付与の時期を管轄の問題として扱う考え方を採っていない。以下、控訴審命令の内容を確認する。

前述の表のとおり、控訴裁判所は、2026年9月21日にSidelの控訴を棄却した。控訴裁判所は、パリ中央部による控訴許可がRoP Rule 220.3の期限経過後にされたことなどから控訴の適法性に疑義があるとしつつ、仮に適法であるとしても控訴には理由がないとして、控訴の当否について判断を示した。

控訴裁判所は、本件非侵害確認訴訟が付与後の特許を対象として非侵害確認を求めるものであるから、UPCA第32条(1)(b)に基づきUPCが管轄権を有するとし、訴訟提起時に特許が未付与であったことによって、特許出願を対象とする非侵害確認訴訟となるわけではないと判断した。一方、特許付与前に非侵害確認訴訟を提起できるかは、UPCの管轄の問題ではなく訴えの許容性の問題であるとした。そして、RoP Rule 19に基づく予備的異議で主張できる事由は同規則に限定列挙されており、許容性はこれに含まれないことから、訴えが特許付与前に提起されたため「早すぎる(too early)」ものとして許容されないか(RoP Rule 61およびRule 63が特許の付与を要求している可能性がある点を含む)は、今後の第一審の手続で判断されるべき問題であるとした。

このように、控訴裁判所は、パリ中央部の結論を維持したものの、答弁書の提出時までに特許付与決定がされていることを管轄の基準とする前記i)およびii)には言及しておらず、特許付与の時期の問題を、管轄ではなく許容性の問題として位置付けた点に留意する必要がある。

(3)コメント
本命令および控訴審命令の射程については限定的に捉える必要があると考えられる。具体的には、まず、両命令はいずれも非侵害確認訴訟に関する判断であり、他の種類の訴訟についても同様の結論が導かれるかは明らかではない。パリ中央部は付与前に提起された侵害訴訟の例を挙げているものの、付与前の提訴が許容されるか否かを正面から判断したものではない。現に、前述のBarco v Yealink事件では、侵害訴訟または仮処分等をUPCに提起し得る客観的に最も早い日は特許付与日であるとの判断が示されており、パリ中央部はこれを仮処分の事案として区別したにとどまる。

次に、Omnia事件では、両件のいずれについても、答弁書が提出されるまでにEPC第97条(1)に基づく特許付与決定がされていたという事情がある。さらに、控訴裁判所は、特許付与前に非侵害確認訴訟を提起すること自体が許容されるかについては判断を示しておらず、この点は本件の第一審で今後審理される。したがって、より早い審査段階にある欧州特許出願を対象に非侵害確認訴訟を提起することが許容されるかなど、両命令の射程については、本件第一審の判断を含め、なお今後の裁判例を注視する必要がある。

もっとも、本命令は、欧州特許出願が特許付与間近になるまでオプトアウトの申請を先延ばしにするリスクを浮き彫りにしている。さらに、控訴裁判所も、特許付与前に提起された本件非侵害確認訴訟がUPCA第83条(3)にいう「訴訟(action)」に該当し、その後にされたオプトアウトは効力を有しない(ineffective)と判断している。これは、訴えの許容性について判断が残されている場合であっても、特許付与前の訴訟の提起によって、その後のオプトアウトが妨げられ得ることを意味する。

前述のとおり、オプトアウトは、欧州特許出願の公開後、UPCに訴訟が提起されるまでであれば審査係属中のいずれの時点でも申請でき、しかも、国内裁判所に訴訟が提起されていない限り、後に撤回することもできる(UPCA第83条(4)、RoP Rule 5.7)。このため、後にUPCでの侵害訴訟提起を希望する場合にも、オプトアウトを撤回することで対応し得る。以上を踏まえて申請時期を検討すると、将来付与される従来型欧州特許についてUPCの専属管轄からの除外を希望する場合には、その機会を失うことを避けるため、特許付与間近まで待つのではなく、欧州特許出願の公開後、できるだけ早い段階でオプトアウトの要否を検討することが考えられる。

[出典]
1.Unified Patent Court「UPC-CFI-0000799/2026」
2.Unified Patent Court「UPC Member States」
3.欧州特許庁「Unitary Patent」
4.欧州特許庁「Agreement on a Unified Patent Court」
5.欧州特許庁「European Patent Convention」
6.Unified Patent Court「UPC-COA-0000090/2026」
7.Unified Patent Court「Rules of Procedure of the Unified Patent Court」(PDF)
8.Unified Patent Court「Final_order – UPC-COA-0000090/2026 – 21 Sep 2026」

[参考]
弊所対外サイト「[特許/欧州] 欧州単一特許制度の基礎知識(1)」
弊所対外サイト「[特許/欧州] 欧州単一特許制度の基礎知識(2)」
弊所対外サイト「[特許/欧州] 欧州単一特許制度の基礎知識(3)」

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