トピックス

  1. TOP
  2. トピックス
  3. [特許/米国]米国特許商標庁、コンピュータ関連発明の機能的ク...
知財トピックス 米国情報

[特許/米国]米国特許商標庁、コンピュータ関連発明の機能的クレーム(ミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム)に関する審査ガイダンスを公表

既報の米国特許法101条(特許適格性)に関する審査ガイダンスの公表と同日の2019年1月4日、米国特許商標庁(USPTO)はコンピュータ関連発明の機能的クレームに関する審査ガイダンスを公表し(出典(1)参照)、1月7日から適用している(出典(2)参照)。

米国特許法では、機能的クレームに関する規定が112条(f)項(旧112条第6パラグラフ)において定められており、実務においてはミーンズ・プラス・ファンクション・クレーム(means-plus-function claim;以下「MPFクレーム」という)と呼ばれている。同条同項によりMPFクレームであると認定されると、クレームされた発明の権利範囲は明細書の実施形態・実施例に対応する構造、材料又は作用及びそれらの均等物(注:均等論における均等とは異なる)に限定される。そのため、権利範囲の解釈が必要以上に狭くなることがないように、出願の審査段階においては、MPFクレームの認定を回避するための対応が求められる場面は少なくない。

また、112条(f)項そのものは拒絶理由ではないが、下記の“3-Prong Analysis”に沿ってMPFクレームであると認定されたことに起因して、112条(b)項の明確性要件違反等が通知される場合があり、日米の特許審査において判断の不一致が生じる一因となっている(出典(3)参照)。

〈USPTOの審査におけるMPFクレームの適用に関する“3-Prong Analysis”(参考和訳)〉

以下のプロング(A)~(C)の分析すべてに該当する場合、審査官は112条(f)項を適用するMPEP 2181
プロング(A)
クレームの限定で「means」若しくは「step」という用語を使用している、又は、クレームの限定で「means」の代替として使用される用語が、クレームされた機能を達成するための一般的な代用語(その場限りの用語(nonce term)、又は、特定の構造的な意味を有さない非構造的な用語とも呼ばれる)である。
※(筆者注)nonce termは、nonce wordと呼ばれることも多い。
プロング(B)
「means」若しくは「step」という用語又は一般的な代用語が、機能的な文言によって修飾され、常にではないが典型的には、つなぎ言葉(transition word)の「for」(例えば、「means for」)、又は、「configured to」若しくは「so that」のような他の連結語若しくは語句によって連結されている。
プロング(C)
「means」若しくは「step」という用語又は一般的な代用語が、クレームされた機能を実行(performing)するために十分な構造、材料又は行為(acts)によって修飾されていない。

今回の審査ガイダンスについては、3月27日に審査官向けの説明資料が公表されており(出典(4)参照)、そこでは本審査ガイダンスはUSPTOの特許審査便覧(MPEP)に規定されている内容を変更するものではなく、審査の質向上のための復習(refresher)が目的であることが明示されている。実際に、審査ガイダンスでは、MPEPの関連箇所(例えば、出典(5)参照)を引用しつつ、Williamson v. Citrix Online, LLC事件に対する2015年の米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷(en banc)判決(※本判決を取り上げた過去記事はこちら)をはじめとする主要な裁判例がピックアップされており、従前の審査実務を変更する指示は含まれていない。この点で、本審査ガイダンスは、判断の流れについて審査実務の変更を指示した101条に関する審査ガイダンスとは性質が異なっている。

また、公表された審査官向けの説明資料では、審査ガイダンスの概要とあわせてMPFクレームに関する典型的な問題を取り上げた下記5つの事例が示されており、理解の助けとすることができる。

事例1:112条(f)項の適用について(→上記の“3-Prong Analysis”の適用例とクレーム解釈に関する留意点)
事例2:112条(b)項の明確性要件について
事例3:112条(a)項の記述要件(サポート要件)の範囲について
事例4:結果指向(result-oriented)の限定における112条(a)項の記述要件について
事例5:112条(a)項の実施可能要件について

このように、今回公表された審査ガイダンスでは、MPFクレームの審査における問題点の観点から審査官が検討すべき事項がまとめられていることから、出願人にとってはオフィスアクションへの対応時における反論の内容、補正の要否等を検討するために有用な資料となっている。

なお、上院司法委知財小委員会の議員により5月に発表された米国特許法101条を改正する法案の草案では、近年の112条(f)項の解釈(具体的には、上述のWilliamson v. Citrix Online, LLC事件のCAFC大法廷判決での判断)を立法化する方向性の改正草案も示されており(出典(6)参照)、今後の動向が注目される。

【出典】
(1)米国特許商標庁「U.S. Patent and Trademark Office announces revised guidance for determining subject matter eligibility
(2)Federal Register「Examining Computer-Implemented Functional Claim Limitations for Compliance With 35 U.S.C. 112
(3)日本特許庁「日米協働調査試行プログラムについて日米協働調査試行プログラム第1期の分析結果(PDF)」
(4)米国特許商標庁「Examination Guidance and Training Materials: Examining Computer-Implemented Functional Claim Limitations for Compliance with 35 U.S.C. 112(PPTX)」※PowerPointのスライドのほか、講義形式のComputer-Based Training (CBT)も提供されている
(5)米国特許商標庁「Manual of Patent Examining Procedure (MPEP) Section 2181 [R-08.2017]
(6)ジェトロ・知財ニュース米国発 特許ニュース 2019年5月24日  上院司法委知財小委員会のTillis議員ら、特許法第101条改正法案の草案を発表(PDF)」

【参考】
米国特許商標庁「Patent Quality Chat (2019 Chat Series) Examining Computer-Implemented Functional Claim Limitations for Compliance with 35 U.S.C. § 112: Slides(PDF), Video

【関連記事】
知財トピックス(米国情報)[特許]米国CAFC大法廷、”means”の文言がないミーンズ・プラス・ファンクション・クレームについて判断 2015-10-05
知財トピックス [特許/米国]米国特許商標庁、特許適格性に関する新ガイダンス「2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance」を公表 2019-04-05

***更新情報(2019年6月19日)***
【参考】を追加

CONTACT

弊所に関するお問い合わせはWebフォームよりお願いいたします。