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[意匠/台湾]意匠の改訂審査基準

台湾では、2020年11月1日に意匠の改訂審査基準が発効された。以下、改訂審査基準の主なポイントを紹介する。

1. 意匠の外観を開示する図面の開示要件の改訂(改訂審査基準第一章2.3.3及び第八章2.2.1等)
改訂前の審査基準では、意匠の外観を開示する図面の開示要件は、以下のように規定されていた。

  • 意匠の外観を開示する図面の一部を提出しなかった場合、かかる図面に表される外観部分は、原則、開示されている部分として取り扱われない。そのため、意匠の外観が適切に開示されたものではないと認定され、実施可能要件違反となる。
  • 例外的には、左右や上下が同一・対称である図面や、一般消費者が物品等を購入・使用時に注意を払わない図面を省略し得る。省略する場合、その理由を意匠の説明に記載しなければならない。ただし、省略することにより、意匠の外観が適切に開示されたものではないと認定される場合、実施可能要件違反となる。

改訂審査基準では、これらの規定が、以下のように変更された。

  • 意匠の外観を開示する図面の一部を提出しなかった場合、かかる図面に表される外観部分は、原則、意匠登録を受けようとしない部分とみなされる。一方、提出した図面に開示されている部分は、部分意匠として取り扱われる。ただし、当該部分意匠が適切に開示されたものではないと認定される場合、実施可能要件違反となる。
  • 例外的には、左右や上下が同一、対称である図面や、提出した図面から意匠の内容を直接知り得る図面を省略し得る。省略する場合、その理由を意匠の説明に記載しなければならない。ただし、省略することにより、意匠の外観が適切に開示されたものではないと認定される場合、実施可能要件違反となる。

改訂審査基準では、提出した図面から意匠の内容を直接知り得る図面の例として、以下の図1が挙げられている。

[図1]
taiwan-design-2021-0419-1

この例では、意匠に係る物品の厚さが極めて薄いことが、立体図、平面図(図中、俯視圖)及び底面図(図中、仰視圖)から直接知り得る。したがって、意匠の説明に「この意匠の正面図、背面図、左側面図及び右側面図は、物品の厚さが極めて薄いことを開示する簡単な図面にすぎないため、省略する」という記載をすることで、これらの4つの図面を省略することができる。また、省略したこれらの4つの図面に表される部分も、意匠登録を受けようとする部分として認定され得る。

2. 建築物、橋梁、内装等の意匠の保護の明文化(改訂審査基準第二章1.2等)
改訂前の審査基準では明文規定はないが、以下の図2に示すような建築物や内装等の意匠登録が行われていた。

[図2]
taiwan-design-2021-0419-2

改訂審査基準では、建築物、橋梁及び内装等も意匠登録の対象に含まれることが明文化された。

3. 分割出願の実体的要件の緩和(改訂審査基準第七章1.2.2)
改訂前の審査基準では、意匠の分割出願にあたっては、以下の3つの実体的要件を満たす必要があると規定されていた。

  • もとの出願に実質的に2以上の意匠∗1が包含されていること
  • 分割出願に係る意匠が、もとの出願時に提出した明細書又は図面に開示された範囲内であること
  • 分割出願に係る意匠が、もとの出願時に提出した図面に異なる意匠として明確に区別できるように開示されていること

∗1:出願に係る意匠だけではなく、出願に係る意匠における独立して取引可能なパーツ(意匠)、出願に係る意匠を開示している図に含まれているほかの意匠、及びもとの出願に提出した参考図や使用態様図に開示されている意匠も含む。

ここで、(3)の規定について、以下の2つの問題があった。

・実体的要件の問題
分割は補正の一態様と言われるものの、(3)の規定を満たしているか否かにより、部分意匠への分割出願と部分意匠への補正との認否の結論が相違し得るという問題があった。以下、この問題を具体的に説明する。

まず、部分意匠への分割出願の認否について説明する。

taiwan-design-2021-0419-3

*図3Aは改訂前の審査基準第七章1.2.2、図3Bは改訂後の審査基準第七章1.2.2の図をもとに作成。

一方、条文及び審査基準では、意匠の補正の実体的要件は出願時に提出した明細書又は図面に開示された範囲内であること、と規定されている。したがって、以下の図3Cに示すように、カメラを開示する図の一部の実線を破線に入れ替えることで、レンズ部分への補正が認められる。

[図3C](改訂前の審査基準第七章1.2.2での図をもとに作成)
taiwan-design-2021-0419-4

つまり、部分意匠を権利化するという目的は同じであるにもかかわらず、分割の手続きを行った場合には認められず(図3B)、補正の手続きを行った場合には認められる(図3C)という認否の結論に不整合が生じていた。

・根拠条文の有無の問題

改訂前の審査基準では(1)は現行専利法(特許法、実用新案法及び意匠法を含む)130条1項、(2)は同142条1項準用34条4項に規定されているが、(3)は根拠条文がないという問題があった。

これらの問題を解決するため、改訂審査基準では、(3)の規定が削除された。この改訂により、上記図3Bのような分割出願も認められ、上記図3Cのような部分意匠への補正の結論と一致した。また、分割出願の実体的要件は、根拠条文がある規定(1)又は(2)のみによって判断がなされることとなった。

4. 画像意匠の保護対象の拡充(改訂審査基準第二章1.2及び第九章2.1.3等)
改訂前の審査基準では、画像意匠に係る物品は、スクリーン、モニター、ディスプレイパネルその他の表示装置関連の物品(以下、表示装置等)に限定されていた。そのため、このような物品に表示・応用されていない画像デザイン(例えば、壁投影又はVR)は、画像意匠の保護対象とならなかった。また、現行の専利法には間接侵害制度が導入されていないため、画像意匠の権利者は、画像デザインを生成するプログラム製品等のみを製造・販売している者に対して、権利行使をすることは困難であった。したがって、画像意匠に係る物品について、審査基準の改訂のニーズがあった。

改訂審査基準では、このようなニーズに応じて、画像意匠に係る物品には、表示装置等のほか、コンピュータープログラム製品等の実体形状を有しないソフトウェア又はプログラムも含まれることとなった。この改訂により、表示装置等に表示・応用されていない画像デザインの意匠登録出願は、当該画像デザインを生成するコンピュータープログラム製品等も画像意匠に係る物品として認められるため、当該画像デザインが画像意匠の保護対象となり得る。そして、出願人は、当該画像意匠を権利化できれば、当該画像意匠を生成するコンピュータープログラム製品等のみを製造・販売している者に対しても権利行使をし得る。

また、改訂前の審査基準では、画像意匠を開示する図面には、画像デザインが表示・応用される表示装置等を破線等で開示する必要があると規定されていた。改訂審査基準では、上記の画像意匠の改訂に伴い(つまり、コンピュータープログラム製品等の実体形状を有しないものも画像意匠に係る物品に含まれるようになったため)、この規定が削除された。例えば、以下の図4右部分のように画像意匠を開示すればよい。

[図4]
taiwan-design-2021-0419-5

5. その他
(1)色彩の保護を求めない意匠の開示要件の補充(改訂審査基準第一章3.2.5)
改訂前の審査基準では、線図、白黒写真又はグレースケールのコンピュータ・グラフィックスの図面を提出しなければならないと規定されていた。改訂審査基準では、出願に係る意匠が図面に開示された白黒やグレースケールといった色彩が含まれていないことを明確にするため、線図、白黒写真又はグレースケールのコンピュータ・グラフィックスの図面を提出する際に、意匠の説明に、図面に表される白黒やグレースケールといった色彩の保護を求めない旨を記載すべきであるという規定が補充された。

(2)色彩を含む意匠の類否判断原則の修正(改訂審査基準第三章2.4.3.2.4)
改訂前の審査基準では、出願に係る意匠と先行意匠を対比して類否判断を行い、差異点が色彩しかない場合、出願に係る意匠は、創作性を有しないものと判断されていた。一方、改訂審査基準では、出願に係る意匠は、先行意匠に類似し、新規性を有しないものと判断されることとなった。

(3)「技術的機能のみに基づいて表された物品の形状」の定義の修正(改訂審査基準第二章2.2)
「技術的機能のみに基づいて表された物品の形状」は、日本意匠法5条3号に規定される物品の機能を確保するために不可欠な形状に相当する。改訂前の審査基準では、この定義について、「意匠に係る物品の特徴が単に物品そのもの又は他の物品の機能や構造に応じるもの」と記載されていた。改訂審査基準では、物品の形状とその技術的機能との関係性をより明確にするため、「意匠に係る物品の形状が専ら技術的機能によって決まり、視覚的外観を創作する余地が全くないもの」に修正された。

【出典】
1.台湾知的財産局「専利審査基準第三編「意匠の実体審査」第一、二、三、七、八及び九章」(PDF)(2020年11月改訂版)
2.台湾知的財産局「「2020意匠実体審査改訂案」の公聴会スライド」(PDF)(2020年7月23日公開版)
3.台湾知的財産局「2020年意匠実体審査基準改訂ポイント」(PDF)(2020年8月31日公開版)

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