[特許・実用新案・意匠/中国]改正専利審査指南 2026年1月1日施行(第2回) ~無効審判請求編~
既報の第1回では、出願手続に関する改正点を解説した。今回は無効審判請求(中国語では「無効宣告請求」)に関する改正点を解説する。
1.一事不再理の運用の明確化(第四部分第三章2.1節、3.3節)
今回の改正により、無効審判制度における「一事不再理」原則の運用がより明確化された。
(1)改正の背景
従来の審査指南では、すでに審理・審決がなされた無効審判に係る専利権(日本の特許権、実用新案権、意匠権を含む概念である)について、「同様の理由及び証拠」に基づく再度の無効審判請求は受理されないとされていた。
しかし「同様」の範囲が必ずしも明確ではなく、中国国家知識産権局(以下、CNIPA)の改正にあたっての公式説明によれば、実務上、法律事実が実質同一であっても、無効審判請求の理由及び証拠を形式面で簡単に調整・変更することで再度の無効審判が請求される例が見られたとのことである。
(2)改正の内容及び関連事例
今回の改正により、「同様の理由及び証拠」の範囲が明確化され、「同一又は実質同一の理由及び証拠」に基づく無効審判請求は受理されないことが明文化された。
すなわち、形式的に異なる主張であっても、基礎となる法律事実が実質同一である場合には、「一事不再理」原則の規制の範疇に含まれると判断される。CNIPAの公式説明によると、具体的な適用例として、次のような場合が考えられる。

(3)改正の影響
無効審判請求人による合法的及び合理的に無効審判を請求できる権利は保障されているが、今回の改正により2回目の理由・証拠に関しては制限がかかるため、初回の無効審判請求時の準備がより重要となったと考えられる。一方で、専利権者にとっては、同一又は実質同一の理由及び証拠に基づく無効審判請求が抑制されることにより、防御負担が軽減されることが期待できる。
(4)留意点
中国では一事不再理が当事者に限定されない点に留意されたい。
すなわち、先の無効審判に関与していなかった第三者であっても、同一又は実質同一の理由及び証拠に基づく無効審判を新たに請求することはできないこととなる。
2.無効審判請求人の主体適格性の厳格化(第四部分第三章3.2節)
今回の改正により、無効審判請求が請求人の「真実の意思表示(無効審判請求人自身の意思)」に基づくものでない場合、不受理とされるという要件が追加された。
(1)改正の背景
無効審判請求は法律行為に該当し、その有効性の前提として請求人の「真実の意思表示」が基本的要素となる。
しかし公式説明によれば、近年の実務では第三者が他人の名義を冒用して無効審判を請求するケースが確認されたとしている。このようなケースでは、無効審判が当該請求人の真実の意思表示に基づかないだけでなく、虚偽の請求書や委任状等の関連書類の提出を伴うことが多く、誠実信用の原則に反するのみならず、無効審判制度の安定性を損ない、さらには市場競争秩序にも悪影響を及ぼすおそれがあると指摘されていた。
(2)改正の内容
今回の改正により、「無効審判請求が請求人の真実の意思表示に基づくものではない場合、当該無効審判請求は受理されない」ことが明確に追加された。
すなわち、従来は請求人の氏名が単に形式的に記載されるにとどまっていたが、改正後は形式的な記載にとどまらず、当該請求が請求人自身の意思に基づいてされたものであるか否かも審理対象となり得る。
(3)参考事例(真実の意思表示が争点となった例)
2025年11月25日の無効審決(第589012号)では、請求人の真実の意思表示が争点となった。本件は、改正施行前の案件ではあるが、今回の改正後の運用を理解する上で参考となる事例と考えられる。

(4)留意点
無効審判請求人側の対応として、無効審判を請求する際、第三者を請求人とすること(ダミー請求)自体が直ちに否定されるものではないが、適切な準備を欠く場合には、請求が受理されないリスクがある点に留意されたい。具体的には、委任状等の真正性の確保、審判合議体から説明を求められた場合の声明書の提出や口頭審理への出席対応等、請求人の意思を裏付ける準備が重要となる。
一方、専利権者側の対応として、請求人がダミー請求の可能性がある場合に、それの背景や請求されている専利権との関連性等を調査して、「請求人の真実の意思表示に基づかない請求」である旨を主張・立証することが考えられる。
【出典】
1.CNIPA「关于修改《专利审查指南》的决定(局令第84号)」
2.CNIPA「关于修改《专利审查指南》的说明」
3.CNIPA「2025年《专利审查指南》修改内容解读」
4.CNIPA「关于《专利审查指南修改草案(征求意见稿)》的说明」等