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知財判決ダイジェスト

特許 令和2年(行ケ)第10122号「ウデナフィル組成物を用いてフォンタン患者における心筋性能を改善する方法」(知的財産高等裁判所 令和4年1月19日)

【事件概要】
拒絶査定不服審判において実施可能要件違反およびサポート要件違反と判断した審決を知財高裁が実施可能要件違反により支持した事例である。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【争点】
以下の用法用量に特徴を有する医薬用途発明について、

【請求項1】
フォンタン手術を受けた患者における、最大努力時VO2により測定される運動耐容能の改善用の医薬組成物であって、ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩を含み、該ウデナフィル又はその薬剤的に許容可能な塩の投与量が1回当り87.5mgであり、前記組成物が1日2回投与される、医薬組成物。

出願人が主張するように、「図2によれば、ウデナフィルを87.5mg、1日2回投与された(以下「本件処方」という。)5名のうち2名は、明らかに最大VO2が正に変化しており、本願発明の医薬が有効であったことを示している。一方、本件処方を受けた5名中3名は、最大VO2が減少しており、本願発明の医薬が無効であったことを示している。本件審決は、この結果について、有意差がないとしているところ、5名中2名しか効いていないので、『有意差がない』ということ自体は正しいと考えられる。しかしながら、有意差がないから、医薬としての有効性が認められず、実施可能要件が認められないということにはならない。・・・ヒト臨床試験を必要とする発明について、特許出願前に有意差を伴う実験データを出すことは非現実的である。」のか

ここで、「フォンタン手術」とは、機能的単心室先天性心疾患をもって生まれてきた子どもたちに対する緩和的外科的処置であり、フォンタン手術の後に、血液を肺動脈に送り出す心室ポンプは存在せず、時間と共に心血管効率の低下をもたらし、この運動耐容能(最大VO2により測定)の低下から、入院、心不全管理の強化、移植の必要性が生じうる。

【結論】
また、変化スコアの平均値「0.2」に対して、ばらつきを示す標準偏差の値「±5.0」は非常に大きな値であるし、本願明細書には「分散分析は変化スコア間に差がないことを示唆する(p=0.85)。」と記載されている(【0180】)・・・

次に、各被験者の個別変化スコアを示す図2並びに各被験者及び各コホートの治療前後の最大努力時VO2を示す図3によると、本件処方のコホート4では、5名のうち、2名の最大努力時VO2は正に変化し、3名の最大努力時VO2は負に変化しているところ、「正の変化が改善を示す」との記載(【0181】)によれば、5名のうち2名については、最大努力時VO2が改善し、3名については、最大努力時VO2が悪化したということになる。しかし、同じくフォンタン手術を受けた患者の中で、正の変化をした者2名と、負の変化をした者3名という正反対の結果がもたらされた理由については、本願明細書には何ら記載がない。・・・

以上のように、本件処方における変化スコアの平均値は小さい一方で、ばらつきを示す標準偏差が非常に大きな値であること、本件処方を受けた者、そのほかの用量・用法の処方を受けた者、ウデナフィルを投与されなかった者のそれぞれについて、最大努力時VO2が正に変化した場合と負に変化した場合があるが、その理由は明らかでないこと、本件処方においては、むしろ最大努力時VO2が悪化した者の方が多いこと、最大努力時VO2が正あるいは負に変化した例数や程度と、ウデナフィルの投与量や投与回数との間の技術的関係についても明らかでないこと、ウデナフィルが、フォンタン手術を受けた患者における最大努力時VO2により測定される運動耐容能を改善することの作用機序が明らかでなく、ウデナフィルが上記のような運動耐容能を改善するとの技術常識があるとも認められないことを踏まえると、コホート4において、5名中2名の最大努力時VO2が正に変化したという試験結果のみをもって、ウデナフィルの本件処方により、最大努力時VO2が改善したものであるとまで理解することはできない。・・・

そうすると、本願発明が実施可能要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはない。

【コメント】
先日報告した、令和2年(行ケ)第10077号「5-HT1A受容体サブタイプ作動薬」の事件では、明細書の記載や技術常識から、当業者が治療効果を理解できれば、投与を避けるべきなどの特段の事情のない限り、実施可能要件・サポート要件を満たす旨判示され、先願主義の下、特許出願を急ぐ出願人に配慮した判断が行われましたが、本件においては、そもそもの有効性が明細書の記載からも技術常識からも理解できないとして請求が棄却されました。

出願人は、5名のうち2名については有効性が認められたことを根拠に医薬用途発明としての「可能性」を認めてもらいたかった訳でしょうが、「用法用量」に特徴を有する医薬用途発明であったことも禍してか、厳しい判断につながったようです。

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