弁理士試験について語る

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知財の専門家として自分の名前で仕事していこうとするなら、弁理士資格を取得することが必要になります。弁理士資格を取得する最もポピュラーな方法は、毎年1回行われる国家資格試験(弁理士試験)に合格することです。この試験は、短答式、論文式および口述式の3ステップからなり、いわゆる難関試験の一つです。
私は、3年間の受験勉強を経て1981年の弁理士試験に合格しました。その後の20数年間は、弁理士稼業の傍らで受験指導の講師として、いわゆる“受験界”と深く関わってきました。受験界から足を洗ってから数年以上過ぎて、本試験の試験委員も経験しましたので、その筋のことは相当に詳しいと自負しています。

弁理士資格を取得して、有能な弁理士となって社会に貢献していきたい…そのような思いで、必死に頑張っている弁理士志望者の勉強に役立つことを願い、私なりに「役に立つ」であろう話をしていこうと思います。
全体の構成は、次のようなものです。毎週1回のペースで、コンテンツを一つずつ追加していきます。

プロローグ

私自身の弁理士“受験界”および本試験との関わり
2018/8/23公開
弁理士試験「合格の秘訣」のようなものを語るに当たって、私自身の受験歴を含めて、いわゆる“受験界”および本試験との関わりを明らかにしておきます。

≪私の受験歴≫

私は1979~81年の3回、弁理士試験を受けましたが、1979年は短答式(当時は「多肢選択式」と呼ばれていた。)に合格して論文式で不合格となりました。しかし、1980年には短答式で不合格となって論文式に進むことができず、ここで抜本的に勉強法を改めました。
これが功を奏し、知財法の知識や理解度を大きく向上させることができて、1981年に短答、論文および口述式に合格して弁理士資格を取得しました。

その後に受験指導の講師となって気づいたことは、特許法などの知財法の知識や理解がソコソコのレベルであっても弁理士試験には合格できる、ということでした。難関の国家試験といえども所詮は競争/選抜試験です。受験者の中で相対的に上位の成績を取れば良いのですから、合格しただけでは知財法の知識や理解度はたいしたレベルではない、ということです。

≪いわゆる“受験界”との関わり≫

私は1981年から20年以上にわたり、受験者を指導する講師の立場から弁理士試験に関わりを持ってきました。指導講師としての活動は1981年の晩秋(合格発表の直後)から始まりましたが、最初の活動の場は「石川ゼミ」と呼ばれる勉強サークルでした。
私自身がこの自主ゼミに所属して受験指導を受けていましたが、合格者は講師として後進を指導すべし、という不文律がありました。私は石川ゼミHクラスの講師として、毎週日曜日はゼミに通い、5月連休と年末年始の連休中は泊まり込み合宿に参加しました。このHクラスのメンバーとの交流はその後も続きましたが、その中の3人は後に創英を設立した時のパートナーとなっています。

石川ゼミの講師をお役御免となった後は、妙な縁で請われて新たに土曜会と称する自主ゼミを立ち上げることになりました。土曜会では、特実意商の4法と条約(パリ、PCT)の自主テキスト(100本前後のレジュメ集)を手書きで作成しました。当時はPCが普及していない時代でしたので、コピペ機能を使ってレジュメを作成するようなことはできず、すべて手書きでしたので法令や制度の理解が深まりました。
土曜会は創設2年目から複数の最終合格者を輩出し、その後、年ごとに合格者とゼミ員が増えました。やがて幾つものクラスを擁する大規模ゼミになり、最終的には累計で200人近い合格者を輩出しました。

私は1982年からの約20年間、上記の自主ゼミ(石川ゼミ、土曜会)と同時並行で、最大手の受験予備校(ダルニー特許教育センター)での講師活動も続けました。基礎講座から受験対策講座まで、特許法、意匠法および商標法の講師を務め、テキストの作成や答案練習会の問題・解答作成および採点と、その講評も担当してきました。
弁理士としての仕事をしながら、受験界でも自主ゼミと受験指導機関の二足の草鞋を履く講師活動は、かなりの ハードワークでした。しかし、度重なる法改正をフォローアップし、知財法のリーガルマインドを把握する上では、人に教える立場の講師活動は非常に有益であり、これが弁理士としての仕事を“深める”上で役立ったことは間違いありません。その意味で、受験界で長く講師活動を続ける機会に恵まれたことを感謝しています。

私は、世紀の変わり目を過ぎた頃に、上記の自主ゼミ(土曜会)および受験予備校から離れ、いわゆる受験界との関係を断ち切りました。受験界から足を洗った後は、創英で働く受験者と試験の四方山話をすることはあっても、特許法などを弁理士試験の観点で語ることはなくなりました。

≪元試験委員であることと、その守秘義務≫

受験界から離れて数年以上経過してから、本試験の試験委員(工業所有権審議会弁理士試験委員)に任命されて3年間務めることになりました。特許法については、短答・論文・口述の問題/解答の作成から論文採点および口述試験実施までを2年間経験し、翌年、意匠法について口述試験実施のみを経験しました。
身内に受験者がいる者や、受験指導に関与してから日が浅い者は、公平性を担保するため弁理士試験委員を務めることは許されません。私の場合は、受験界との関わりは深く長いものでしたが、それらとの関係が途絶えて数年以上経過したということで任命されました。

試験委員は、特許庁HPで告知されている通り、(1)短答の問題作成から口述の実施まで全てを担当するタイプと、(2)論文の採点のみを担当するタイプと、(3)口述の実施のみを担当するタイプの、3種類があります。私は、特許では上記(1)のタイプだったので、この2年間は、かなりのハードワークになりましたが、大変勉強にもなりました。
特許庁HPで告知されている通り、試験委員には特許庁審判官、弁理士はもちろん、知財高裁判事、大学教授、弁護士も含めて構成されており、特許法の問題と解答の作成を巡って彼らと喧々諤々議論する会議は、たいへん刺激的で学ぶところも多くありました。

弁理士試験委員を務めた者は、その任を解かれた後も国家公務員法に基づく守秘義務が課されます。同法第 100 条は、「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。」と規定しており、元試験委員である私が「職務上知ることのできた秘密」に基づいて試験合格の秘訣などを語ることは許されません。
これを逆に言えば、試験委員としての「職務上知ることのできた秘密」に基づくものでなければ、たとえ試験合格の秘訣であっても語ることは許されるはずです。例えば、私が試験委員に就任する以前に執筆した文書を再録ないし編集して“試験の傾向と対策”公表しても、それは守秘義務違反になりません。もちろん、特許庁HP等で告知されていることを引用したりしても、それが守秘義務違反にならないことは明らかでしょう。

私は、「東京の特許事務所 創英・所長Hの ほんやら日記」という題名のブログを2005年11月から運営しています。試験委員に就任した後は弁理士試験についてブログで語ることを自粛してきましたが、それ以前にはいくつかの記事を投稿しています。また、創英の季刊情報誌「創英ボイス」にも、試験委員就任前にいくつかの弁理士試験に関する記事を投稿しています。
このページのコンテンツのうち“試験の傾向と対策”に関連する部分は、それら“試験委員就任前”の記事をベースに構成していますので、試験委員として「職務上知ることのできた秘密」に基づくものではないことは明らかです。もちろん、このページを編集するに当たって加筆した内容やコメントもありますが、これらは勉強の方法論や心構え、弁理士受験の考え方に関するものが中心であり、国家公務員法第100条に抵触しないよう配慮しています。

≪いまさら「弁理士試験合格の秘訣」を語る理由≫

最近の20年間、弁理士試験を志す受験者は合格率の激変に翻弄されてきました。合格者数の推移を見ると、下記の通りです(合格率は単純に合格者数を当該年の志願者数で除算)。
――――――――――
西暦年:合格数/志願数(合格率)
1987年:86人/2,933人(2.9%)
1997年:135人/4,564人(3.0%)
2007年:613人/9,865人(6.2%)
2009年:813人/10,384人(7.8%)
2017年:255人/4,352人(5.9%)
―――――――――――
志願者数と合格者数の激変に驚く一方で、合格率(%)は一桁台をキープしており、難関の国家試験であることは変わっていません。

知財の専門家として仕事しようとするなら、弁理士資格を取得することが必要になりますが、簡単に取れる資格ではありません。そうであるにも関わらず、知財の仕事を志す若者が多数いる以上は、彼ら/彼女らが最も効率よく資格取得できる手立てを、その道の先輩(諸般の状況を知っている者)として語ってあげることも必要ではないか、と思った次第です。
そういう思いから、いまさらながら弁理士試験について語り、その「合格の秘訣」を私なりに明らかにしようと考えました。合格のテクニックではなく、合格するために必要なことは何か、将来的に無駄にならない努力をするには何が必要か、を考えたいと思います。

手っ取り早く合格するために、短期で合格した人の体験談を読んで/聞いて、それに倣って集中的に勉強して一気に合格する、というのは理想であり、少数ながらそのような合格者を何人か身近で見てきました。しかし、これを“普通の人”が安直に模倣するのはリスクがあり、簡単にはお勧めできません。
難関試験ですから、簡単には合格できません。当然、数週間や数か月の短期戦ではなく、年単位の長期戦になりますから、勉強の方法論や受験生活を維持するためのマインドを高める工夫も必要になるのです。

実際に試験委員を経験して知り得たことは多々ありますが、これらを暴露することはできません。ただ、言えることは、20年以上も受験界に深く関わってきて、弁理士本試験について思うことや予想/想像することは多々ありましたが、一言でいえば、本試験は受験界の講師時代に「想像していた通りだった」ということです。弁理士試験についていろいろと試験委員就任前にブログなどに書いてきましたが、今、これらを読み返してみると、ほとんどが当たっている…このことに我ながら驚いています。
基本に則った王道をいく勉強をすることが試験合格の最短コースとなる、ということを痛感しています。では、基本に則った王道をいく勉強とは、どういう勉強なのか。そこのポイントを、私なりの考えと理屈で明らかにすることは、まじめに受験勉強されている方々にとって、多少でもお役に立つことがあるはずであり、これが元試験委員としての守秘義務に違反するものではないと思っています。

第1部 王道を行く弁理士試験勉強法

第1部は、第1話から第6話で構成されます。週一回のペースで、各話をアップロードします。
第1話.①長期戦は避けて、②苦労や犠牲は最小限にして、③最後には必ず合格する勉強法
2018/8/27公開
「王道を行く弁理士試験勉強法」などという大上段に構えたタイトルを付けましたが、どういう勉強法が試験合格の最適コースになるのかは、人それぞれであってケースバイケースです。ただし、①できるだけ早く(長期戦は避けたい)、②できるだけ楽に(無駄な苦労や犠牲は最小限に)、しかも、③確実に合格したい(合格できずに諦めるのは嫌だ)というのは、すべての受験者の共通の願いでしょう。実は、この①、②および③の優先順位をどうするか、これらのバランスをどのように付けるか、が最初の問題です。

弁理士試験はかなり難関の国家試験ですから、生半可なことでは合格できません。覚悟と、努力と、犠牲の三要素が必要です。世紀の変わり目から数年前までの時期、合格者大量増産によって相対的に楽な試験になりました(それでも合格率11%未満)が、その後は再び難関試験に戻っています。巷には、種々の合格体験談/体験記が出回り、短期合格や効率的合格の手法が語られていますが、貴殿が“普通の人”であって、一般的な社会環境で生きているならば、これらの成功体験を安直に鵜呑みして道を誤ることがないようにアドバイスしておきます。

試験勉強に画期的な方法はありません。地道に日々の泥臭い努力を積み重ねていく勉強が必要不可欠です。その場合、受験者であるご自身の年齢、立場、環境などは冷静に評価しておくべきでしょう。まず、人間の記憶力や理解力は加齢とともに低下する、と心得るべきです。25歳の受験者と45歳の受験者が、同じような手法で同じ時間だけ勉強した場合、25歳の受験者が合格できても45歳の受験者が合格できないというのは、ごく普通にあり得る、自然の摂理の一種です。2017年の試験統計でも、各年代の合格率は、20歳代が9.1%、30歳代が7.8%、40歳代が5.0%、50歳代が3.0%ですから、加齢とともに合格が難しくなるのは明らかです。

無職の受験者と有業の受験者の場合でも、勉強にとれる時間の余裕は全く異なりますから、当然に合格率は違ってきます。また、選択科目には免除制度がありますから、この適用を受けられるか否かでも合格率は違ってきます。2017年の試験統計でも、志願者に占める選択免除者の割合は48.8%でしたが、合格者に占めるその割合は83.7%でしたから、選択科目が免除されていない受験者が不利なのは明らかです。

結局、20歳代~30歳代前半で選択免除の志願者は、かなり有利な試験だということを統計から読み取ることができます。万一、貴殿がこの2つの条件を満たしているのなら、決して受験を後回しにしないで今こそ本気になる必要があります。自然の摂理である加齢現象により理解力と記憶力が落ちてしまう前に、気合を入れて勉強してサッサと合格することに必死になったほうが良い。弁理士試験は難関試験ですが、難関であればこそ人生をかけて挑戦する価値があります。特に20歳代~30歳代前半の若い人たちには、若いうちに難関資格を取得することで、知財の分野で血沸き肉躍る人生に挑戦するチャンスも巡ってくるでしょう。

商業ベースの受験指導機関の場合は、受験者を基礎講座に集めてなんぼ、受験者にテキストを売ってなんぼ、受験者を模擬試験や答案練習会に集めてなんぼ、という資本主義の論理の下で、受験指導を事業/商売としてやっています。合格しにくい年代の人、なかなか受験を諦めない人たちは“おいしい”お客様です。受験指導機関の宣伝文句や合格体験談に触れたときは、自身の年齢、立場、環境などから“何をなすべきか”を冷静に判断することも必要でしょう。

「王道を行く弁理士試験勉強法」は、前述の通り、人それぞれであってケースバイケースです。①長期戦は避けて、②苦労や犠牲は最小限にして、しかも、③最後には必ず合格したい、という受験者共通の3つの願いに対して、自分なりの優先順位を付けて自分なりの比重でバランスさせた勉強法、これが「王道を行く弁理士試験勉強法」のベースとなります。
その場合、上記①および②を意識するあまり、上記③が結果的に疎かになったりしないよう、十分に注意すべきでしょう。弁理士試験は合格率が数%の難関試験ですから、予備校に通って何回か受験すれば必ず合格できるようなものではありません。特に、知財の仕事にこれから就く(既に就いている)という人は、最も優先すべきは上記③の「最後には必ず合格する」ということですから、安直な勉強法に安易に走ったりせず、基本重視でリーガルマインドを涵養していく勉強法を心掛けるべきでしょう。

第2話.初学者は基礎/初級講座の門を叩くべし
2018/9/3公開
弁理士試験の勉強の第一歩を踏み出す人は、まずは基礎/初級講座の門を叩くべきです。商業ベースの受験指導機関であろうとなかろうと、そんなことはお構いなく、勉強初心者は独学ではなく講座に学びに行くべきです。青本(特許庁編「逐条解説」)が基本書であり、かつ、弁理士受験勉強のバイブルであるのは間違いないですが、最初から青本の通読や熟読に取り組んでも、何が書かれているのかチンプンカンプンで、知財法の勉強が嫌になるのは必定です。

例えば特許法の全体像を樹木に例えると、樹木は根っこがあって幹があって、さらに枝があって小枝があって、その先に葉っぱがついています。独学ではこの全体像を読み取ることが難しく、どこに根っこがあってどれが幹なのか、その枝はどの幹から伸びていて、その葉っぱはどの枝のどの小枝についているのかを、自分なりに把握し理解するまでに無駄な努力を重ねてしまいます。その結果、知財法の勉強の面白さを見出すことができず、限られた時間を浪費して挫折することになりやすい。

基礎/初級講座を選ぶときは、この、知財法の全体像をよく把握していて明快に解説してくれる講師の講座が良いでしょう。例えば、合格して数年が過ぎて、少なくとも複数年は基礎/初級講座の解説を経験しているような中堅ないしベテラン講師の講座であれば、1時間の講座を聴くことで3時間分の独習と同等の効果がある、と考えて良いでしょう。

「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その1)
(2009年01月07日)
知的財産法の初学者の体系的な勉強法は…

やっぱり、良質の講義を聴くのが一番です。私も経験しています。独学の非効率性と、良質の講義を受けることの大切さ。
弁理士受験を志した1978年当時、私は独学で始めました。吉藤先生の特許法概説や、青本と呼ばれる逐条解説を買ってきて、読んでノートを作りました。かなりの労力をかけた。時間もかけた。実力の程度を測るために模試を受けたら、惨憺たる結果。
ボロボロ!
本を読んでいても、大事なところと、そうでないところが区別できない。それじゃダメ。また、知的財産法は、法律といっても憲法や民法とは異質の(関西風に言えば辛気臭い?)法律なので、独学では理解しにくい。
講義を聴くのが一番です。とりわけ、知的財産法の本質から話してくれる講義を聴くのが一番です。これが勉強のスタートです。
その次は、受験準備に手馴れた人から指導を受ける。

基礎/初級講座の門を叩くといっても、東京、大阪、名古屋などの受験環境に恵まれた都市部から離れた地方にお住いの方には、なかなか適切な講座が見つからない(存在しない)のが実情です。そのような場合は、大手受験予備校の通信講座やWEB講座を使って“観て聴いて学ぶ”と良いでしょう。講座に通って多くの受講者と一緒に講義を聴く、という臨場感はありませんが、地方で受験勉強する場合には受容するしかありません。

ここで、基礎/初級者向けのアドバイスを二つ書いておきます。

第1は、基礎/初級講座に通うようになると、それだけで自分は試験合格への道を順調に歩んでいるような錯覚に陥りがちですが、そんな甘いものではありません。仮に受講生が100人の講座だったとすると、将来的に最終合格までいけるのは半数以下であり、一般的な講座では受講生の多くは数年のうちに戦線離脱して2割か3割しか弁理士になれません。自分が通っている講座の受講生の平均レベルやそれ以下に甘んじているようでは、弁理士資格取得など単なる願望でしかない、と心得るべきです。基礎/初級講座に通って“観て聴いて学ぶ”勉強をしながら、寸暇を惜しんで自学自習することが欠かせません。

たいへん厳しいことを言うようですが、それが現実です。弁理士試験は、受験講座に通っていればお約束通りに合格が待っている、というようなお手軽な資格試験ではありません。資格試験は難関であればあるほど合格したときの価値が高いのですから、その試験の厳しさに前向きにチャレンジしていく心意気が必要です。

第2は、基礎/初級講座に通う傍らで、自学自習では何をテキストにするか、という問題です。まず、講座のテキストは、予習や復習に利用されることはあっても、講座から離れた自学自習には使えません。だからと言って、初学者が青本を読み込むのは、なかなかハードルが高い。そこで、知財法全般の基礎を固めるという意味で利用したいのが、政府刊行物の一つである「知っておきたい特許法」(工業所有権法研究グループ編著)です。

同書はタイトルが「…特許法」となっていますが、特許だけでなく実用新案、意匠、商標、不正競争、著作権さらに条約まで幅広く解説しており、知財法の全体系を把握するのに適しています。同書は青本のエッセンスの一部を取り込みながら、たいへん読みやすく書かれていますので、一度ならず二度、三度と繰り返し読むことで、青本をスムーズに読み込むことができる基礎力が培われます。
「知っておきたい特許法」だけでは、短答式試験に合格するためには、いま一歩、コンテンツとして足りないところがありますが、“まずは知財法の全体を体系的に理解する”という受験勉強の王道に沿っていますので、青本の通読・熟読に取り掛かる前の基本テキストとして活用できるでしょう。

第3話.基礎/初級講座を卒業したら独習ベースにすべし
2018/9/10公開
受験講座が効果的なのは、初学から基礎/初級の間だけです。中級レベルに入ってきているのに受験講座に依存し、そのテキストを愛用しているようでは、短答試験の合格ラインの手前で足踏みしてしまいます。あなたが“普通の人”であるならば、勉強の重点を講座ベースから独習ベースに切り替えない限り、最終的な合格確率は低下します。中級レベルでは独習が受験勉強のベースであり、受験講座は補助的なペースメーカー程度に位置付けるべきでしょう。
中級者とは、短答試験で合格点に2,3点足りないレベルであり、これ以下の人は一人前の受験者にはカウントされません。勉強を始めて2年、3年が過ぎたのに、このレベルに到達できない人は、勉強法や勉強密度を見直して心機一転巻き返すか、あるいは受験から撤退するかしないと、受験指導機関にとってオイシイお客様で終わってしまいます。短答試験で合格点に2,3点足りないレベルまで来たら、初級/基礎レベルを抜けて中級レベルの勉強が始まります。受験講座に依存した基礎/初級レベルの勉強スタイルから、独習を重点とする中級レベルの勉強スタイルへの脱皮が大切です。

中級者の独習の基本書は青本(特許庁編:工業所有権法逐条解説)であり、基礎/初級講座のテキストなどはゴミ箱に放り込むのがお勧めです。受験指導機関のテキスト類が自分に合っている、馴染みやすいという人は、テキスト類を勉強のベース本として利用することも有りでしょう。しかし、その場合でも、テキスト類で学びながら逐次、青本の該当箇所を読み込む(条文も含めて)ことを忘れてはなりません。事実上、受験指導機関のテキスト類だけで勉強して青本を使わずに合格した人もいますが、確実に合格したい(合格できずに諦めるのは嫌だ)という人には、リスクが高い勉強法ですのでお勧めできません。

青本を基本書とすべき理由は、弁理士試験が国家試験だからです。青本は国家の行政機関である経済産業省特許庁編の公式の逐条解説であり、解説書のコンテンツ(条文および趣旨、字句の解釈等)は国家の立法機関である衆参両院での審議資料がベースとなっています。青本は正真正銘の国家による知財法の解説書であり、一方、弁理士試験は特許庁が所轄する国家試験ですから、弁理士試験勉強の基本書が青本になるのは当然至極のことであり、青本の他に基本書の類が存在するはずはありません(唯一の例外は国家の立法機関の判断たる最高裁判例)。
弁理士試験は国家資格試験ですから、国家として弁理士の素養と能力を備えた人材を選考するのが狙いです。青本をベースとする学び方は、知財法の基本に忠実な勉強ですから、弁理士に必要なリーガルマインドを獲得するための王道です。受験勉強を試験のためだけに終わらせるのではなく、資格取得後の弁理士としての活躍のベースを形成するための勉強であると位置付けて欲しいと思います。

「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その2)
(2006年05月14日)
弁理士試験

特許事務所や企業の知財部に勤務している人、知的財産の仕事への転職や就職を希望する人なら誰でも知っている…弁理士試験の短答式試験が近づいています。これをもって「今年の試験は終わる予定」という人がいる一方で、これは論文試験を受けるための「単なる脚きり試験に過ぎない」という人もいるでしょう。
受験の目的は、人それぞれです。
「そこに試験があるから受ける」という人もいるでしょうし、「資格取得のマニア」を自称する人もいるでしょう。そして、「知的財産の世界で生活することを決めて、人生を掛けて受験する」という人もいます。

そういう本気派(本格派?)の方に、私なりのアドバイスをすれば、“その先”を見通さない“短答式試験のためだけの勉強”はやめよう!…ということです。

弁理士試験に合格するには、先ずは短答式試験に合格するのが前提であり、これがないと話になりません。しかし、それは弁理士試験の最終合格までの第一歩に過ぎません。
短答式試験は…
試験に合格して弁理士となって、その立場で仕事をしていく長い職業生活の第一歩に過ぎません。短答式試験の合格から弁理士試験の最終合格まで、そして弁理士となってからの知財における長い職業生活において、一貫して大切なのは、“知財の法律的な考え方”と“知財における法律的な見方”です。
一般的なカタカナ用語で言えば、よく聞く「リーガルマインド」ということでしょう。

このリーガルマインドから最も外れた短答式試験の勉強法は…いわゆる短答式試験の問題演習を中心とする勉強法です。特に、答練会の模試の“引っかけ問題”は最悪。実力のレベルを確認するために“本試験の過去問”を解いてみる、というのは必要なことです。
しかし、それは短答合否レベルの模擬的確認に過ぎません。
弁理士試験に本気モードで挑戦し、「知的財産の世界で生活することを決めて、人生を掛けて受験する」という人は、①条文、逐条解説、基本書の読み込みと、②これらに基づく“自作の要点整理”と、を組み合わせた勉強をオススメします。

合格率が2%とか3%とか…そういう時代には、あまりに狭き門だったので、とにかく合格することが大切でした。プロセス抜きに、合格できれば“何でも有り”とも言えました。今は違います。合格率も大幅に上がり、門戸は広くなった。普通レベルの人が真面目に受験すれば、運が悪くなければ2,3年で合格できる試験になっています。

そういう時代には、「どのような勉強をして合格したか」というプロセスが大切になります。もちろん、合格できなければ話が始まりませんが、「知的財産の世界で生活することを決めて、人生を掛けて受験する」という人には、合格までのプロセスが大切になっています。
本気モードで受験される方は、“リーガルマインド”ということを忘れずに勉強してください。そして、この試験勉強を“世間に通用する知的財産権の一流の専門家を目指す道程の第一歩”として頑張っていただければ…と思います。

上記の「ほんやら日記」からのピックアップ記事は2006年05月14日のものです。この年は短答受験者9,298人に対して短答合格者2,878人(合格率30.1%)であり、合格者大量増産の真っただ中でした。それゆえ、知財法の基本的事項の理解も十分とは言えないまま短期合格する人(運の良い人)も多く、上記のブログでは「普通レベルの人が真面目に受験すれば、運が悪くなければ2,3年で合格できる試験」と評しています。しかし、今は全く状況が違います。これ逆に言うと、この当時の短期合格体験談は、今となっては余り参考にならない、ということです。

2017年の場合は、短答受験者3,213人に対して短答合格者287人(合格率8.9%)であり、短答式のハードルが明らかに高くなっています(合格率で3倍以上)。第1話では、受験者の共通の願いが、①できるだけ早く(長期戦は避けたい)、②できるだけ楽に(無駄な苦労や犠牲は最小限に)、しかも、③確実に合格したい(合格できずに諦めるのは嫌だ)という3点に集約されると述べましたが、どんなことがあっても必ず最後には合格の栄冠を勝ち取りたい、という真剣モードの受験者は、腰を落ち着けて基本に忠実な勉強を心掛ける必要があります。
昨今の状況下では、手っ取り早く合格しようと短期志向で走って基本を見失うと、結局は最終合格まで到達できずに資格取得を諦めてしまう結果になりかねない点に留意すべきです。

第4話.中級者は青本を繰り返し通読すべし
2018/9/17公開
初級/基礎レベル(短答合格まで少なくとも数点足りないレベル)を超えた中級者の独習は、青本を基本書として何度も繰り返し読むことです。通読は2回、3回といわず、5回でも10回でも繰り返すことが大事です。勉強でもスポーツでも習い事でも、基本を教わった後は、適宜にコーチを受けながら、ひたすら同じ練習を繰り返すことで上達していきます。通読を繰り返すことで、短答試験の得点力は着実にアップします。
青本を通読する際に、注意すべき点が2つあります。

注意点の第1は、まずは条文を読み、次に「趣旨」や「字句の解釈」を読み、不明点が出たら条文を確認することです。条文軽視で解説文を中心に読んでいると、知財法の理解が産業政策上の“制度としての理解”に留まってしまい、“法律としての理解”が疎かになりがちです。喩えて言うと、知財法の理解がモヤッとした“わかったつもり”のレベルになってしまいます。これが、条文を軽視した勉強法の盲点です。
注意点の第2は、ラインマーカーや書き込みは躊躇することなく行うことです。ラインマーカーを引くこと自体が記憶し理解するステップの一部です。ただし、何度か通読してマーカーや書き込みが目立ってきたら、その青本は参照用資料として脇に置き、通読用の新しい青本を買うことが大事です。真っ新な青本で気分もリフレッシュして、新たにラインを引き、書き込みをして、繰り返しの読み込みを再開することが秘訣です。この話をすると、「青本があるのに新しい青本を買うのは勿体ない」という人がいますが、試験の合否を左右すると考えれば、取るに足らないコストです。

青本を延々と通読するだけでは芸がない、試験の最初のハードルである短答対策と絡め勉強がしたい、という人には、短答式の本試験の再現問題に取り組み、問題/解答枝を読み解きながら青本をチェックして該当箇所を読み込む、という勉強法をお勧めします。その場合、答練会の問題ではなく、必ず本試験の再現問題をやること、そして、問題集の解説を読んで終わらせるのではなく、必ず青本の該当箇所に立ち返り、条文を参照しつつ「趣旨」や「字句の解釈」を読み込むことが大事です。

「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その3)
(2006年06月08日)
最強の受験勉強法 今年も「あと1点」に泣いた人へ!

弁理士資格試験の短答式試験で、「あと1点、足りなかった」という人は、今年も、特許事務所や企業や大学に、たくさんいるようです。今年が最初の受験、という人は、「残念だけど、よく頑張ったね!」ということで済ませられます。しかし、昨年ないし一昨年(以前から!?)に引き続いて…という人は、ショックですね。
その当事者には、“とても失礼な話”になるかもしれませんが、ちょっと本音を書きます。

2年連続、3年連続で、「自分としては頑張ったけど、あと1点、あと2点に泣いた」という人は、
以下…
タイプ1.そもそも試験に向いていない人、
タイプ2.自分では頑張っている“つもり”なだけで、周囲から見ると頑張っていない人、
タイプ3.頑張っているが、その“頑張る方向”が間違っている人、
タイプ4.頑張る方向は間違っていないが、頑張る手法(頑張り方?)が間違っている人、
…のいずれかです。
私の本音で、タイプ1~4をさらに詳しく言うと…

≪タイプ1≫ そもそも試験に向いていない人。

こういう人って、必ずいます。真面目に頑張っているのに、試験で良い点が取れない。
こういう人に中には、“自然確率未満の点しか取れない”というのもいます。短答式試験は5枝から1枝を選ぶのですから、でたらめに解答しても自然確率で50点満点中の10点は取れる!…ハズです。
ところが、2年、3年と勉強しているのに、これ未満の点数しか取れない人がいる。半端に知識があるから、正解を外して回答する…結果、自然確率未満の得点となる。

冗談みたいですが、本当ですよ…こういう人は、そもそも“試験に向いていない”ので、進む道を変えるべきです。人には得手と不得手がありますから、得手を見つけて伸ばすべきです。
逆に…
不得手であることがわかったら、パッと試験は棄てる。企業の知財部や特許事務所で働いていても、パッと試験は止める。仕事と資格は別物。弁理士試験のことなんか、綺麗サッパリ忘れて、新しいことに挑戦しましょう。

≪タイプ2≫ 自分では頑張っている“つもり”なだけで、周囲から見ると頑張っていない人、

こういう人は、けっこう多いですね。人間は誰しも、自分に甘く、周囲が見え難い! 
周囲の人は、おおむね優しく、厳しいことを言ってくれません。たいして頑張ってもいない人に「落ちたの? そう…残念だったね。 あんなに勉強したのに…気を落とさないで」なんて慰める。そして「大丈夫…今の調子で勉強すれば、来年は必ず合格するよ!」なんて励ます。
まったく、無責任極まりない!

2年も3年も勉強して受験して、それでも短答式試験すら合格できないのに…そんな人に「今の調子で勉強すれば、来年は必ず合格するよ!」だなんて、おかしいですよ…アホかっ! こういう“周囲の甘やかし”、“無責任な慰め”が、「自分では頑張っている“つもり”なだけで、周囲から見ると頑張っていない人」を拡大再生産させているのです。

≪タイプ3≫ 頑張っているが、その“頑張る方向”が間違っている人、

このタイプは、かなり多いのではないでしょうか。特に、最近は増えている!?
弁理士試験は法律の試験です。法律は条文から成り立っています。…ならば、弁理士試験の勉強は条文の勉強でなければなりません。
条文には制定の趣旨があり、立法の理由があります。条文は文章であり、そこから意味が読み取れます。…ならば、条文の勉強は“制定の趣旨と立法理由を理解する”ことを背景として、条文という“文章の意味を読み取る”チカラを身につける勉強でなければなりません。

条文を離れると、弁理士試験のための勉強は、単なる社会科としての“知的財産制度の勉強”に成り下がり、弁理士試験で理解度が試される“法律の勉強”ではなくなります。その結果、制度の知識はあっても、法律の理解が足りないから、試験で“問題が解けない!”ことになり、“短答でも論文でも点が伸びない”ことになります。

レジュメやサブノートは便利かもしれませんが、それらは所詮、単なる“出来合いの制度の整理集”に過ぎません。
ましてや…自作のレジュメやサブノートならば自分の魂も込められますが、市販のモノや他人のコピー物は他人の魂の抜け殻しか入っていないのですから、“自分の役に立たない”ことを知るべきです。

市販のレジュメやサブノート、他人のコピー物だけで勉強して1,2年で最終合格した…という人も少なくありません。昔でも、そういう人は少数ですが、実際にいました。試験上手な人…一種の天才です。普通の人が真似するのは、お勧めできません。
ましてや、2年連続、3年連続で、「自分としては頑張ったけど、あと1点、あと2点に泣いた」という人は、絶対に真似してはいけません。その理由は…わかりますよね。もし、わからなかったら…あなたは≪タイプ1≫の変形だと思いますから、生きる道を変えましょう!

≪タイプ4≫ 頑張る方向は間違っていないが、頑張る手法(頑張り方?)が間違っている人、

頑張る手法は、人それぞれです。万人共通の秘策はありませんが、受験生活が長くなると、勉強の手法もマンネリ化するので、その対策が必要でしょう。
対策を一つだけ、ご紹介します。まず、「今年も「あと1点」に泣いた人」にお尋ねします。
<質問1>
試験準備/勉強では、法令集を座右に置き、基本書や逐条解説の勉強を重視しましたか?
<質問2>
昨年の試験勉強で使った基本書や逐条解説は、そのまま今年の試験勉強でも使いましたか?
<質問3>…※質問2で「イエス」の人にのみ尋ねます。
その基本書や逐条解説には、ラインマーカーや鉛筆でマーキングがしてありましたか?

質問1がイエスでないと、来年も合格は難しいですよ。基本から外れている。特に、今年も「あと1点」に泣いた人は、まず無理です。
考え直しなさい!

質問2がイエスで、質問3もイエスの人は、やっぱり来年も合格は難しいですよ。その理由は…基本書や逐条解説に書き込まれたラインマーカーや鉛筆でのマーキングが、あなたの“知的成長を阻害する”のです。特に、カラフルなラインマーカーは最悪。
基本書や逐条解説は、毎年、新しく購入して下さい。そして、まっさらな気持ちで、まっさらな書き込みのない基本書や逐条解説で勉強して下さい。
そのかわり、勉強中は、「基本書や逐条解説にはコメントを書き、鉛筆で線を引き、マーカーを使う」ことが大切です。綺麗に使ってはいけません。なぜなら、“コメントを書き込む”“マーキングをする”という“行為自体が勉強”だからです。

コメントを書き込む、マーキングをする、という行為の過程で脳細胞を働かせて、法律を理解し、結果として記憶に留めているからです。だから…“基本書や逐条解説は汚くなるように使う”けれども、“少なくとも年に一回は新品と交換して、古いのを棄てる”ことが大切。
なぜなら…既に書き込まれているマーキングは、その後の知的成長を阻害する【過去の勉強の残りカス】でしかないからです。

この勉強法は、単に、「少なくとも年に一回は基本書や逐条解説を新規購入する」という簡単なものですが、意外と効果があります。そのほかにも…色々とありますが、長くなるので、この辺で止めます。

ともあれ、今年の短答式試験で、「昨年に続いて“あと一点”で涙を呑んだ」人は、「心機一転で、がんばるぞー!」と今すぐは思ったりしては…ダメですよ!しばらくはボケーッとして、テキトーに(めいっぱい?)落ち込んで、悔しさを溜め込んで、…「その気」になるまでは勉強しないで、来年の試験のための鋭気を養うために遊び溜めして下さい。
大切なのは、戦略とメリハリです。

青本の読み込みベースの勉強を、ただひたすら独習だけでやっていると、受験生活がマンネリ化したり、勉強中の疑問点や不明点が解決できなかったりしてスランプに陥りがちです。そういう場合、ペースメーカーの役割を持たせるために各種の指導講座を利用すると、受験生活にリズムが生まれて勉強がはかどります。また、独習中の疑問点や不明点も解決できるので、優れた講師の指導する受験講座は特に重宝します。職場や知り合いの受験者仲間(真剣に勉強している仲間)で勉強会を作り、青本を輪読して疑問点や不明点を議論するのも好適でしょう。
ただし、
中級者の勉強の基本は、青本の読み込みベースの独習であることに変わりはありません。例えば週30時間の勉強時間を確保している人は、週8時間分は指導講座や自主勉強会での勉強時間であるとしても、残りの22時間はしっかり独習に充てる必要があります。週22時間の独習を積み重ねているからこそ、週8時間の指導講座や自主勉強会での集団学習や議論が活きてくるということです。

弁理士試験に合格するためには、一定量を超える勉強時間は不可欠です。青本を何度も繰り返し読んで、重要条文が自然に暗唱できるようになるくらい青本のエッセンスを脳味噌に叩き込むことができれば、合格の栄冠をグッと引き寄せることができるでしょう。例えば、週8時間は指導講座や自主勉強会で勉強しているが、独習は週5時間で済ませている、という週13時間程度の勉強密度では知財法の上っ面しか理解できず、永遠に最終合格は勝ち取れない、と心得るべきです。

年がら年中、同じペース(例えば週30時間)で勉強するというのも得策ではありません。少なくとも本試験終了後は息抜きも必要です(ただし、息抜きが長くなるほど受験生活のリズムが戻りにくくなるので注意)。人間の記憶力は時間の経過とともに“勉強したことを忘れる”という特性がありますから、年間のスケジュールを立てて、試験本番が近づくほど勉強密度が高くなるようにメリハリと戦略を持って勉強時間を調整し、本試験の当日に最大かつ最高のパフォーマンスが出せるように工夫することが大切です。

第5話.弁理士試験の天王山は短答? 論文? それとも口述?
2018/9/24公開
21世紀を迎えた頃の数年間に、弁理士試験制度が大幅に改正されましたが、それまでは、弁理士試験の天王山は論文式試験でした。制度改正前は、短答式合格の年に論文式に合格しなければ口述式は受けられず、かつ、論文式試験は必須5科目プラス選択3科目でした。この試験制度が段階的に改正され、論文式試験の必須科目から条約類が除外される一方で、選択科目に免除制度が導入され、短答式試験には合格の翌年の試験が免除される制度が導入されました。
このような試験制度の改革がなされる一方で、短答、論文および口述式試験の合格率は大きく変遷しました。結論から言うと、弁理士試験の天王山は論文式試験から短答式試験に大きくシフトしています。これは、次のグラフから読み取ることができます。

弁理士試験合格率

短答合格率が2008年から2012年頃の過渡期を挟んで大きく異なっていること、それに対して、最終合格率は多少の変動はあるものの短答合格率のような大きな変動がないこと、が読み取れます。この時期を挟んで、弁理士試験の天王山は論文式から短答式に大きく変遷したと言えます。
例えば、2014~17年の4年間と、その10年後の2004~07年の4年間について、それぞれ合計の短答式合格者数と合計の最終合格者数を集計し、4年間の合格割合を百分率で計算すると、次のようになります。

2004~07年の合格割合%
:100×(最終合格者総数)/(短答合格者総数)=100×2592/10902=23.8%
2014~17年の合格割合%
:100×(最終合格者総数)/(短答合格者総数)=100×1255/1998=62.8%

この数字は、計算した私自身も少し驚いています。短答合格者総数に対する最終合格者総数の比率が、23.8%から62.8%への大幅に上昇していたからです。短答式に合格した年に最終合格する受験者もいれば、短答式に合格した年の翌年以降に最終合格する受験者も多いので、上記の数字が厳密に短答合格者のうちで最終合格する人の割合を示すものではありません。しかし、単年ではなく4年間の合計で計算しましたので、ある程度以上の確度で合格割合を示していると思います。弁理士試験の天王山は短答式試験にシフトしている、ということが読み取れるでしょう。
最近数年間の最終合格者には、工業所有権法の免除者や短答式の全部または一部免除者が多く含まれているので、いわゆる合格率が把握しにくくなっています。そこで、これら免除者等を除外した「一般」系統について、短答式試験の合格者数/受験者数と論文式試験の合格者数/受験者数だけを集計したのが、下記のグラフです。前年の短答合格実績によって翌年の短答が免除される制度(持越し制度)が始まった2009年から短答合格者数が急減していることがわかります。このグラフの見方を変えると、2009年以降の数年間については、論文受験者を“適切な人数”とするために短答合格者数を絞った、とも言えます。

弁理士試験合格率

特許庁統計における「一般」系統の受験者数および合格者数からのデータから、短答式試験の合格率(=短答合格者数/短答受験者数)と論文式試験の合格率(=論文合格者数/論文受験者数)を計算して示したのが、下記のグラフです。論文受験者に対する論文合格率が25%前後で略一定しているのに対して短答合格率が大きく変遷し、最近は10%前後になっていることが読み取れます。そして、論文合格率が25%前後となるように短答合格者数を調整している、という憶測が生まれる原因も、この辺りにあると言えます。いずれにせよ、これらのグラフからも、弁理士試験の天王山は短答式試験にシフトしている、ということが読み取れるでしょう。

弁理士試験合格率

「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その4)
(2007年12月22日)
短答式試験合格の「2年間有効制」は有利な制度!?

来年から、弁理士試験の内容が変わります。最も注目すべきは「短答式試験合格者は、短答式試験の合格発表の日から2年間短答式試験のすべての科目が免除されます」という点でしょう。
この制度改正によれば、「試験は受けやすくなる! 受かりやすくなる?」ようにも見えますが、実際のところは…逆に「短答式試験が難しくなる」のではないでしょうか?
その理由は、①短答式試験の合格者は論文式試験の受験者であること、②論文式試験の採点は試験委員の人海戦術に頼っていること、の二つです。

短答式試験は、問題の選択枝から正解を選んでマークシートに記入する試験です。だから…問題文の作成は、かなり大変な作業(試験委員の負荷が大きい)ですが、しかし、採点は機械的に(コンピュータなどで)行いますから簡単です。極端に言えば、短答式試験は受験者が1万人でも10万人でも、あるいは100万人であっても、採点の負荷自体はそれほど変わらない。

論文式試験は、問題文に対する解答を論文形式で記述する試験です。だから…問題文の作成は、短答式に比べると相当に楽な作業ですが、しかし、採点は試験委員の手作業で一通ずつ行いますから、非常に大変な作業(試験委員の負荷が大きい)となります。つまり、論文試験の “採点の負荷”を考慮すると、論文式試験の受験者を無闇に増やすことはできない、ということです。

その状況において、「短答式試験合格者は、短答式試験の合格発表の日から2年間短答式試験のすべての科目が免除されます」ということになると、どうなるか。
簡単なシミュレーションをします。
・・・・・・・・・・
(条件1)短答式試験の合格者は2,500人とします。
(条件2)論文式試験の合格者は500人とします。
このように仮定すると、
<今までの試験制度>では、論文式試験の受験者は2,500人ですから、試験委員の “採点負荷”は受験者2,500人分となります。
ところが、
<今後の試験制度>では、前年の短答式試験の合格者で前年の論文式試験の不合格者は、翌年の論文式試験を受けることになります。
その数は、前年の論文での合格数で変動しますが、概ね2,300人とか2,400人となるでしょう。

この状態で、また2,500人の短答式試験合格者が誕生すると…論文試験の受験者は5,000人近くになります。
問題となるのは、論文式試験の採点負荷です。論文の採点は試験委員の人海戦術に頼っているし、それ以外に採点は無理です。手書き論文は人手以外に採点不能です。まさか、国家試験の採点の外注化なんて無理です。だから、試験委員を増やすしかない。
さて…そのようなことは果たして可能なのでしょうか。試験委員の増員は当然に為されるでしょうが、限度があります。

そうなると、考えられるのは、【短答式試験合格者数の減少】です。つまり、短答式試験が難しくなるということ。この「短答式試験合格者は、短答式試験の合格発表の日から2年間短答式試験のすべての科目が免除されます」という制度改正の影響が出るのは、再来年の試験からです。もし仮に【再来年の短答式試験合格者数は大幅に減少するかも!?】ということだとすると、【来年の試験で短答式試験に合格者する】というのは、受験戦略上は、とても重要であると言えるのではないでしょうか。

上記の「ほんやら日記」は2007年12月22日の記事ですから、すでに10年以上の歳月を経ています。このブログで「再来年の短答式試験合格者数は大幅に減少する」と予想した通り、短答合格は2009年から急に難しくなりました。その後に、私は試験委員を務めましたが、今になって記事を読み返すと、本試験の楽屋裏は概ね想像していた通りでした(詳細については、守秘義務に関係するので言及を控えます。)。このような試験制度の下では、短答試験の必須科目および論文試験の選択科目の免除制度をうまく使うことが重要になります。これについては、いずれ機会がある時に述べることにしましょう。
第6話.短答式を制する者は弁理士試験を制する! 
2018/10/1公開
第5話で、データを参照して説明した通り、弁理士試験の天王山が短答式にシフトし、短答式の合格者が減少し、しかも、短答式の合格率が低くなっている、というのが昨今の現実です。この現実に直面して、①長期戦は避けて、②苦労や犠牲は最小限にして、しかも、③最後には必ず合格したい、という受験者は、どのような戦略と戦術で弁理士試験を攻略すれば良いのでしょうか。
結論から言えば…
短答式/論文式対策を統合した勉強法が良いでしょう。短答式と論文式で勉強方法や教材等を分けるのではなく、短答式のための勉強が論文式のための勉強になってしまうような短答式のための勉強を心掛ける、ということです。つまりは、青本を基本書として条文を把握し、その「趣旨」と「字句の解釈」に記載されたコンテンツを条文と関連付けて理解するということであり、例えば、短答式の過去問をやる時でも常に青本に立ち返って条文、趣旨および字句の解釈を読み込み、青本から知財法のリーガルマインドを理解して論文式対応力を強化していくということです。
この基本に忠実な青本ベースの勉強法によって短答式に合格することは、決して難しくはありません。
この場合、特に留意したいのは、短答式を“余裕の高得点で合格する”ということです。短答式は合格最低ラインでクリアできれば“それで良し”とするのではなく、最低ラインを少なくとも3点、望ましくは5点、さらに望ましくは7点と超えていくような高得点でクリアしたい。基本に忠実な勉強で短答式を高得点でクリアした受験者であれば、論文式試験の四法の問題(特に、これらの中核をなす事例問題)は特別に答案練習などを経験しなくてもスムーズに解けるでしょうし、合格点を取ることも難しくないでしょう。これを超える高得点で短答式をクリアできた人は、論文式でも合格点を取る確率が高い、ということですが、この辺りの事情は後述します。

「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その5)
(2008年06月05日)
弁理士試験 勝利の女神が微笑むときは…。

弁理士試験の論文式試験が近づいてきました。創英メンバーの受験者の試験休暇届けに、毎日のように押印しています。今年も、短答式試験の合格者が出て、特許メンバーと商標メンバーを合計して、二桁には到達しなかったですが、二桁に近い数名が論文試験に挑戦します。

「来年も試験受けるなんて面倒くさいからよぉ、今年で決めろっ!」と言って休暇届に押印しています。5回目受験であろうと、10回目受験であろうと同じ「今年で決めろっ!」。受験年数が多い人には、「いつまでも受験なんかにカカズリあってんじゃないのっ!」。今年、初挑戦で論文に進んだ人には、「さっさと受かってしまえっ! 受験長老の真似なんか、やめとけっ!」と言っています。

今年、論文試験を受ける人は、一部を“まぐれ”で論文に進んだ人を除いて、「ほとんど同じスタートラインに立っている」と思います。最後の追い込みの三週間、ここで諦めずに、最後の最後まで、死力を振り絞って闘い抜いた人には、きっと合格の女神が微笑む。少しでも弱気になったり、最後の手前で諦めた人は、きっと落ちる。
試験や戦いは、そういうもの。
論文試験を受ける人は、最後まで死力を尽くす…そうすれば合格の光明が見えてくる。

アメリカ大統領選挙の民主党予備選で、ヒラリー・クリントンさんは、誰もが認める劣勢にありながら、未だに諦めていない。「ひょっとしたら、歴史的な大逆転があるかもしれない」なんて…思ったりしませんか?
結果的に負けても良いのです。でも、「負けが100%決まるまでは絶対に諦めない」というのは、試験でも選挙でも同じ。
戦いの鉄則です。
試験が終わった瞬間に、精根尽きて倒れ伏すくらいに、死力を尽くして頑張れば、きっと合格の女神が迎えに来てくれます。

上記の「ほんやら日記」は2008年06月05日の記事ですから、アメリカ大統領選挙の民主党予備選で、ヒラリー・クリントンさんがバラク・オバマ大統領と戦った時のことが書かれています。それはともかく、試験合格を“本気の本気”で目指す人は、最後の最後まで死力を尽くすことが大事であり、それが試験合格の一番の秘訣です。

今回の第6話のタイトルは、「短答式を制する者は弁理士試験を制する!」となっていますが、単に「短答式に合格すれば論文式にも合格できる」と言っているわけではありません。青本をベースとした基本に忠実な勉強をして、短答式の合格ラインを数点以上の余裕をもってクリアした受験者であれば、各法(特に意匠法と商標法)の重要項目を解説問題対策用に整理しておくだけで論文式の試験準備は十分であり、それ以外の特別に論文試験を意識した勉強をやらなくても論文式に合格できる、という意味です。
これを平成29年度と平成30年度の論文式問題で確認します。論文式問題の出題形式には、大別すると、①事例を示して、その事例からいくつか設問し、コンパクトな回答や簡単な解説を求めるタイプの問題(いわゆる「事例問題」)と、②法律上の用語や制度概念を示して、その制度趣旨や内容解説を求めるタイプの問題(いわゆる「解説問題」)とがあります。平成29、30年度の論文問題を分類すると、下記の通りです。
・・・・・・・・・・・・・・・
[特許・実用新案]
平成29、30年度のいずれも問題Ⅰ,Ⅱの双方とも事例問題(100点)
[意匠]
平成29、30年度のいずれも問題Ⅰは解説問題(40点)、問題Ⅱは事例問題(60点)
[商標]
平成29年度の問題Ⅰは解説問題(35点)、問題Ⅱは事例問題(65点)
平成30年度の問題Ⅰは解説問題(40点)、問題Ⅱは事例問題(60点)
・・・・・・・・・・・・・・・
<事例問題>は、諸々の条件が定められた事例に対して法律の適用要件を当てはめて解答を導く問題ですから、法律の条文の趣旨や適用範囲、適用要件に対する正確な理解と、事例への当てはめ能力が必要になります。このような事例問題の解答能力は、短答式の問題を解く能力と共通しますから、基本に忠実に短答式の勉強を積み重ねて短答式試験を高得点でクリアする実力を身に着けていれば、特に論文式のための勉強をしなくても合格点を取ることができます。なお、事例問題と解説問題の配点にも留意すると良いでしょう。解説問題は意匠と商標で出題されていますが、事例問題の方により多くの配点がされていますから、論文式試験の中核は事例問題にあると言えるでしょう。

<解説問題>は、問題文に示された法律用語や制度概念を整理して解説する問題ですから、これらを事前に整理して本番で出力できるように準備しておくことが必要です。例えば、平成29年度の商標の問題Ⅰは、「商標登録の異議申立制度と無効審判制度の異なる点について、説明せよ。」となっており、平成30年度の意匠法の問題Ⅰは、「意匠法において、一つの意匠として認められるものを、意匠法第2条その他の関係する条文に照らして説明せよ。」となっていますが、これらは論文式対策として事前に整理して記憶してあれば、短時間で合格点をとれる解答が作文できます。この場合、短時間で解説問題の解答・作文を済ませることができることが大事であり、これができれば事例問題の方に多くの時間を割くことができるので、合計点をアップさせるのに非常に有利になるのは間違いありません。

これまでの話を総合して、弁理士試験の短答・論文式の双方を攻略するために大事なポイントを2つだけ上げておきましょう。第1は、青本をベースとした基本重視の勉強により、短答式を高得点でクリアできる実力をつけることです。この場合、特実意商の四法の短答式で高得点を挙げる実力があることが重要であり、そのような受験者は、特実意商の論文式の事例問題で合格点を取るポテンシャルを持っていることに留意すべきです。第2は、論文式の解説問題のための対策として、重要な制度の趣旨や特徴、内容をコンパクトに整理しておくということです。これは論文式の事例問題の解答にかける時間をできるだけ長く取るための対策でもあります。

なお、数年前に口述式試験の不合格率が一時的に高まった時期がありましたが、弁理士試験の天王山が口述式ではないことは明らかでしょう。そもそも口述式試験は、試験日が異なっていれば試験問題も異なりますので、この試験を厳しくしすぎると受験者相互間の公平性が損なわれることになります。また、口述式試験は一人の受験者と二人の試験委員だけで行われますので、受験者としてはどの試験委員に当たるかの運・不運に左右されやすく、しかも密室での試験ですので何らかの問題があっても検証不能です。試験の公平性の観点からいえば、短答式が最も公平な試験であり、口述式は最も公平性に問題がある試験、ということになるでしょう。

第2部 短答・論文・口述式試験対策各論

第2部は、第1章(短答式試験)、第2章(論文式試験)および第3章(口述式試験)で構成されます。

第1章 短答試験

第1話.短答試験の本番直前対策の秘訣「その1」と「その2」
2019/3/11公開
弁理士試験の短答式の試験日が近づいています。世間では「一次試験」と呼ばれることもありますが、試験本番の数週間前から数日前までの“合格の秘訣・直前バージョン”を披露します。
よく考えれば“当たり前の留意点”です。しかし、当たり前であるからこそ確信をもって、「いまさら騒いでも仕方ない!」なんて諦めずに、「あと◎△日もある!」ということで、先ずは努力してください。

先ず「本番直前」とは何なのか。人によって条件が違うので一概には言えませんが、概ね本試験の2,3週間前以降と考えてください。それ以前は、条文を体系的かつ正確に理解するため、逐条解説(青本)をバイブルとして勉強すると良いでしょう。
しかし、本番の直前になってもこの勉強法を続けていると、条文を繰り返し勉強する(目を通す)という意味で回転速度が悪くなり(繰り返し回数が少なくなり)、ラストスパートが効きにくくなります。

短答試験合格の直前対策の秘訣「その1」と「その2」は、過去に私のブログ(ほんやら日記)でポイントを公開しています。まずは、その該当箇所を引用します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月16日
大事なことは「徹底的に条文に執着した勉強」をすることです。これが、合格の秘訣(その1)です。もし、受験生の貴殿が今、市販の短答問題集やら模擬試験の問題やらをやっているなら、「直ちに廃棄する」ことが合格の条件です。
今、どうしても問題をやりたかったら、過去の「本番の再現問題のみ!」としてください。これが、合格の秘訣(その2)です。弁理士試験の本番の問題は“試験後に公開”されます。このため、問題文の解釈が分かれる問題や、考え方によって答えが別れる問題は、巷間の模擬試験では出題されても、本番では出題されません。
本番では、解答に“疑義が出ない問題”が出題されます。「疑義のない問題」とは、解答する根拠が条文から直接に読み得る問題です。だから、「条文を理解すれば解答できる問題」が出題されます。
きわめて当たり前のことですが、これが、「徹底的に条文に執着した勉強」が大切な理由です。弁理士試験の短答式試験は、しょせんは一次試験であり、それ以上の試験でもなく、それ以下の試験でもないのです。市販の問題集や模擬試験の問題は、「本番の試験問題を参考に作られている」のですが、受験業者のオリジナリティを出すために改変しています。しかし…それ(本試験問題の一部改変)は合格を目指す受験者には“余計なお世話”なのです。
だから、市販の問題集は、受験産業の飯の種や、受験者のランク付けに使えることはあっても…本番で「合格を目指す受験者の勉強の役には立たない」のです。

上記のブログは2007年5月に公開していますから、私が本試験委員に就任する前です。この後に試験委員として短答問題の作成に関与して「想像していた通りだった。」と感じたことを今でも覚えています。

短答試験合格の直前対策の秘訣「その1」と「その2」をひとことで言えば、ひたすら「条文を繰り返し読んで頭に叩き込み、過去問をチェックして該当条文を読み込むことで条文理解を正確にしていく」ことに尽きるでしょう。
私がこのように断言する理由は、下記の3つです。

第1の理由は、短答式「試験の内容」は弁理士法第10条第1項で規定されており、具体的には、
(1号)特許、実用新案、意匠、商標(これらを「工業所有権」という。)に関する法令
(2号)工業所有権に関する条約(パリ条約、特許協力条約等)
(3号)弁理士業務に必要な法令であって、経済産業省令で定めるもの
に限定されていることです。
ここで、「法令」には法律の他に政令や規則(経済産業省令)も含まれますが、政令や規則については法律の条文と直接に関係する部分のみが対象になると考えて良いでしょう。
例えば、特許法8条(在外者の特許管理人)第1項には「…政令で定める場合を除き…」とありますから、これに該当する特許法施行令第1条は出題範囲だということです。また、例えば、特許法第41条(特許出願等に基づく優先権主張)第4項には「…経済産業省令で定める期間内に…」とありますから、この期間が何日であるかは出題範囲だということです。
しかし、法令には政令や規則が含まれるといっても、法令の主要かつ骨格部分は法律であり、政令や規則は付随部分に過ぎません。工業所有権に関する法令において法律は政令や規則に比べて圧倒的に重要な役割を占めていますから、本番直前の勉強は条文をひたすら頭に叩き込むことが中心になります。政令や規則については、法律の条文中に「…政令で定める場合を除き…」とか「…経済産業省令で定める期間内に…」とがの記載がある場合のみマークしておけば良い、ということです。

第2の理由は、条文の理解は過去問をチェックすることで正確さを増していく、ということです。条文には、制度の根幹をなす重要な規定(例えば、発明の進歩性の規定)がある一方で、付随的な重要度の低い規定や、他法の条文を引用したり読み替えたりして読みにくくなっている長文の規定があります。これら玉石混交の条文集をむやみやたらに読み込むのは得策ではありません。
そこで、過去問をチェックして玉石混交の条文の中から重要な規定(重要であるから過去に出題されている。)をピックアップし、条文の意味を正確に理解していくことが必要になります。
ただし、過去問チェックを勉強の中心に据えるのはお勧めしません。過去問は所詮、過去に出題された問題に過ぎず、今年の短答試験で同じ問題が出るわけではないからです。だからと言って、過去問を一部変形させた受験予備校の模試問題に手を出すべきではありません。
条文をひたすら読んで暗記することに集中するのではなく、ましてや、過去問をひたすら繰り返し解いて試験対策するのではなく、両方の勉強手法を関連付けていくこと、すなわち「過去問をチェックして該当条文を読み込むことで条文理解を正確にしていく」ことが秘訣です。

第3の理由は、短答試験で満点を取る必要はない、合格ラインが65%だとすると35%の問題は間違っても合格できる、ということです。法令の中には政令や施行規則も含まれるのは事実ですが、そのあたりは捨てたとしても“自分の合否を左右することはない”と考えるべきです。そして、工業所有権に関する法律と条約の“本法の条文”にターゲットを絞り、合格ラインを少し超えた70%台の正答率を狙うのが得策でしょう。

以上の次第で、短答試験合格の直前対策の秘訣は、
(1)ひたすら条文を繰り返し読んで頭に叩き込み、
(2)過去問をチェックして該当条文を読み込むことで条文理解を正確にしていく、

ことに尽きるでしょう。

第2話.条文の「熟読理解」と「通読反復」のメリット、デメリット
2019/3/16公開
条文の知識と理解なしに弁理士試験の問題を解くことはできません。特に短答式試験では、論文試験のように試験中に法令集を参照することができませんから、条文の意味と内容をシッカリと脳味噌に叩き込んでおくことが不可欠です。
ところが、人間ですから記憶力(記憶の持続力)には限界があり、条文を憶えても暫くすると忘れてしまいます。何度憶えても何度でも忘れてしまうところから、自分は記憶力が足りないのではないか、合格レベルまで条文を脳味噌に叩き込むことは永遠に無理ではないか、と思ってしまう人もいるほどです。

結論から言えば、条文の知識と理解が不十分である理由は、根本的に勉強が足りないからであって、努力不足を嘆いても問題は解決しません。では、どうするか。
条文の知識と理解を得るためには、二つの勉強法があります。

第1は、熟読理解による勉強法です。条文によって構成される制度の趣旨や背景、理由などから条文の文言の意味・意義を理解することにより、条文の意義と内容を“脳味噌に叩き込む”という方法です。例えば、受験講座を聴講して条文の意義と内容を理解する、逐条解説を読み込んで“条文の趣旨から条文を理解する”という勉強法です。
この「熟読理解」法は論文式試験の対策にもなるという意味で効果的ですが、条文を趣旨から理解しようとすると時間がかかるため、一度勉強した条文が再び勉強の対象となるまでに一定の時間を要する、という問題があります。例えば全部で300箇条の条文を、その趣旨や背景も含めて一日2時間かけて勉強した時、仮に一日に3箇条分しか勉強できなかったとすると、全300箇条を熟読するのに100日間もかかってしまいます。これでは、一度勉強した条文に再び巡り合えるのは100日後になるので、短答式試験の直前対策には不向きです。

第2は、通読反復による勉強法です。条文にこだわり、条文の語句をそのまま読み込んで理解し、条文を脳味噌に叩き込む方法です。例えば逐条解説(青本)を使って勉強する場合、条文の通読/音読をメインとし、条文の語句等の理解で躓いたときのみ趣旨を参照するようにすれば、読み込みのスピードは格段に速くなります。その結果、何度も繰り返して通読できるので、一度勉強した条文に再び巡り合えるまでの期間が短くなり、脳味噌の中に残る記憶を呼び覚ましやすくなり、短答式試験の直前対策には有利です。

短答試験合格の直前対策として、この「通読反復」勉強法を私のブログ(ほんやら日記)で公開していますので、その該当箇所を引用します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月16日
「条文を理解する」というのは、条文を妙なゴロ合わせや、怪しげな暗記法で「ソラで言えるようにする」ことではありません。「趣旨や背景から理解する」というのが「条文を暗記する」という意味です。でも、あと3日となった今になって、勉強の足りていない貴殿に「趣旨や背景から理解しろ」とは言えませんので、「まだ条文が理解できていない」という人は、「ともかく条文を繰り返して声を出して読む」ことに挑戦してください。

何度か繰り返すと、条文を見ないで暗誦できるようになります。そうしたら…次の条文に進んで、これを繰り返す。どんどん先に進むと、最初の方の条文から記憶が薄れて、どんどん暗誦できなくなりますが、まったく構いません。一度でも暗誦できれば、脳味噌の中に「刺激を与えると甦る」カタチで条文の記憶が、深層の記憶領域に残っています。
本番の試験中に問題文を読むと、一度は暗誦できてその後に忘れていた深層の記憶が、頭の中から「かすかな記憶として甦ってくる」ことでしょう。すると、問題文の5つの枝の中から正解の枝を選び出す直感が生まれてきます。

信じる者は救われますから、「自分は合格できる」と信じて、周囲が「あっ!…と驚く!」一発逆転の短答試験合格を勝ち取ってください。
試験準備に出遅れて、未だ合格の見込みを見出し得ない“参加することに意義がある”タイプの受験者諸兄の健闘を祈ります。

条文の「通読反復」勉強法のメリットを一つだけ紹介しておきます。これも、ちょっと考えれば当たり前のことですが、当たり前のことゆえに、ここで確認しておきます。

通読反復を1回、2回、3回…と何度も繰り返していくと、1回目の通読よりも2回目、2回目の通読よりも3回目、という感じでどんどん所要時間が短くなってきます。通読を繰り返すことで少しずつ脳味噌の中に条文の知識が蓄積されていくので、通読を繰り返すほど通読スピードが上がってくるのです。
これができるようになると、試験本番で脳味噌の深層の記憶が蘇りやすくなるので、問題文の5つの枝の中から正解を見出しやすくなるのです。短答式本番の直前の2,3週間は、条文の読み込みをハイスピードで繰り返す、そういう我武者羅な勉強法に徹すれば、きっと幸運の女神が微笑んでくれるはずです。

第3話.「必ず正解したい」種類の問題と、「できれば正解したい」種類の問題
2019/3/20公開
短答式試験問題の基本は、問題の枝の文章中に“誤った記述”を発見できるか否かにあります。問題の枝の文章中に誤った記述を見出した時には、その枝が誤っていると判断することができます。逆に、その枝の文章中に誤った記述を見出すことができない時には、その枝が正しいと判断することになります。
短答式試験の問題は全部で60問ですから、全部で60×5=300枝あります。この枝の文章中に誤った記述がチラホラと忍び込ませてありますから、これを発見するのが試験/受験の基本です。つまり、各枝の文章から誤った記述を探し出すことができれば、それが誤った枝となりますから、「次のうち誤りはどれか?」という問い方の問題に正解することができます。

短答式試験の問題文は、その問い方に8つのパターンがあり、これを種類で分類すると、下記のAからDの4つのタイプになります。
++++++++++++++++
Aタイプ:正しい枝はどれか? 正しい枝の組合せはどれか? 最も適切な枝はどれか?
Bタイプ:正しい枝はいくつあるか? 
Cタイプ:誤りの枝はどれか? 誤りの枝の組合せはどれか? 最も不適切な枝はどれか?
Dタイプ:誤りの枝はいくつあるか?

この4タイプのうち、AとCは正統派の問い方ですが、BとDは邪道の問い方です。「邪道」というと言葉は悪いですが、本来の正統的な問い方ではないからです。例えば、問題の枝がイロハニホの5つあって時、イとロのみが誤りであるときは、「誤りがいくつあるか?」の問いに対する正解は「2つ」となります。
ところが、受験者が誤り枝はイとホと考えても(ホを間違って選択しても)、あるいは、ロとニと考えても(ニを間違って選択しても)、さらには、両方とも間違えてハとホのみが誤りと考えていた場合も、「2つ」と解答することになるので正解になります。

このように「いくつあるか?」を問うような問題では、受験者の知識を正確に評価できない仕組み上の欠陥があるところから、私は邪道と呼んでいるのですが、残念なことに平成30年度の特許法・実用新案法の問題では邪道派が半分を占めているのです(次の表を参照)。
このような欠陥があることは試験の実施者側も承知しているのですが、それでは何故、欠陥のある出題の仕方を続けているのでしょうか? いくつかの理由や背景が語られていますが、ひとことで言えば受験者の平均的な“正解率を調整する”ための工夫の一つと考えると理解しやすいでしょう。現行の試験制度では、合格水準点をあらかじめ決めて事前に公表しているので、全体の正解率は高すぎても困るし低すぎても困るはずです。そこで、問題文の作成プロセスで問題の問い方を変えてしまえば手っ取り早く正解率は調整できる、というストーリーを描くことができませんか?

少し脱線しましたが、このような事情を考慮すると、「必ず正解したい」種類の問題と「できれば正解したい」種類の問題は、問題文の“問い方”で判別できます。結論から言えば、必ず正解したいのは正統派の問い方の問題であり、その中でも誤った記載をひとつ発見すれば正解できるCタイプ(誤りの枝はどれか?)が一番であり、次にAタイプ(正しい枝はどれか?)が必ず正解したい2番手となります。
一方、できれば正解したいのは邪道派の問い方の問題であり、Dタイプ(誤りの枝はいくつあるか?)の問い方もBタイプ(正しい枝はいくつあるか?)の問い方も、どちらも自信を持って解答できる受験者は多くないでしょう。ただし、十分な勉強を積んでいる受験者ならば、確実に外せる解答枝が2つや3つはあるので、最終的には二者択一あるいは三者択一になりますから、最後は「えいやっ!」で解答すれば当てずっぽうの五者択一よりも高い確率で正答することができます。

表:平成30年度の短答式試験問題における「問い方」
特実 意匠 商標 条約 周辺 合計
A. 正しい枝、どれか? 9 4 2 1 6 22
B. 正しい枝(組合せ)、いくつか? 8 1 2 1 0 12
C. 誤りの枝、どれか? 1 4 4 5 4 18
D. 誤りの枝(組合せ)、いくつか? 2 1 2 3 0 8

上の表は、上述した「問い方」で昨年の本試験問題を分類した結果です。特許・実用新案法には邪道派の問い方の問題が多いのに対して、意匠法は邪道派の問い方の問題が少なく、周辺法(不競法、著作権法など)は全て正統派の問い方になっています。

この問い方の「傾向」から、試験本番の「対策」を立てることができます。まずは、試験が始まったら、周辺法の問題から着手し、次に意匠法の問題に取り掛かり、その次に商標法と条約の問題を済ませた後、残り時間を確認した上で、特許・実用新案法の問題に取り組むことを推奨します。特実から順番に問題を解いていったら邪道派の問題で悩んで途中で時間不足に慌ててしまい、最後の周辺法の正統派の問題は駆け足で読み込み不十分で解答してしまった、というのでは普段の勉強の成果が活かしきれず、悔しい思いをすることになります。
なお、平成30年度の場合は特実に邪道派の問題が集中していましたが、31年度もその傾向が維持されるとは限りません。試験委員が大幅に変わったり、発言力のある試験委員が入ったりすると、問い方も含めた問題の傾向も変わるので、その点は注意すべきです。ただし、正統派の問題が多い法律から先に問題を解いていく方が、少なくとも時間配分上で得策だ、というのは変わりません。

表を見るとわかるとおり、問い方が正統派の問題は60問中40問、邪道派の問題は60問中20問です。貴殿が「正統派の問題なら80%の確率で正解できる、邪道派の問題でも40%の確率で正解できる」とするなら、獲得点数は40×0.8+20×0.4=40点となるので、合格することができます(科目の足切りは別として)。

このように考えると、短答式試験に合格するのは難しくない、という気がしませんか?
合格できると信じて、残された短答式試験本番までの日々を、必死に頑張ってください。

第4話.短答試験本番での心得
2019/4/3公開
短答式試験の満点は60点です。わずか1点差で合否が分かれます。
「ほんやら日記」2007年05月17日付では、合否のライン上にいる受験者の皆さんに向けて、「本番での心構え」を3つ、申し上げています。
第1は「捨てる勇気を持つ」こと。
第2は「迷ったら最初の直感でいく」こと。
第3は「同じ枝が連続しても気にしない」こと。
これを順番に引用して解説します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月17日

≪第1.捨てる勇気を持つ≫
勉強していた範囲から外れた問題に直面したら、「それは捨てる」ことが秘訣です。そもそも、合格するために満点は必要なく、例えば60%正解が合格ラインなら40%は間違って良いのです。
勉強していない範囲は、いくら考えても無駄です。単なる無駄に留まらず、「貴重な試験時間の損失」にもなります。鉛筆を転がしたり、自分のラッキーナンバーなどで「テキトーに解答」して、サッサと次の問題に取り組みましょう。

勉強範囲から外れた問題が出たら「捨てる!」のが基本の対策ですが、鉛筆を転がす前に5つの選択肢は軽く目を通したい。
例えば「次のうち、正しいものはどれか?」という問題で5本の枝がある場合、テキトーに5枝から選んで解答すると、正解の確率は20%です。ところが、5枝を通読すると、例えば2本の枝は常識的ないし過去の“うろ覚え”の記憶から「誤っている」と判断できることがあります。そうすると、残り3本の枝に正解があるわけです。
そこで、テキトーに3枝から選んで解答し、正解の確率を20%から33%に上げたところで打ち切りとします。その後は、ごちゃごちゃ考えずに次の問題に取り掛かる、という時間節約的/合理的な対応が大切です。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月17日

≪第2.迷ったら最初の直感でいく≫
解答が一巡して、残った時間で見直しをしたとき、「あれ? こっちの枝が正解かなぁ」と悩むことがあります。悩み始めると、「こういう場合もあるんじゃないか」とか、「ああいう場合もあるんじゃないか」とか、とにかく悩みが尽きなくなる。
こんなときは、ある程度の根拠や、自分なりの確証がない限り、「最初の答えを変えるのは危険」です。迷って解答枝を変えたことによって正解となることも、もちろんあります。しかし、変えたことで不正解となる確率の方が高いです。自分の直感を信じて下さい。

全問を解答するのに精いっぱいで試験時間は余らない、という人には無縁の注意点ですが、これで1点、2点を失う人が意外と多い。試験の終了間際に迷って解答を変えてしまい、それで合格点に1点だけ届かなかった、というのは残念過ぎます。
受験指導機関の模擬試験問題では、いわゆる引っ掛け問題や、制度の些末な部分を問う問題も見かけますが、本試験の短答式問題の大半はオーソドックスに作られています。試験の終了間際には気持ちの余裕が失われて、焦りが出てきます。そういう状況で、ああでもない、こうでもないと考えを巡らせると、迷いが嵩じて不正解の枝が正解の枝であるかのように錯覚しがちです。
それゆえ、試験の終了間際に五分五分で迷うようなときは、最初の選択枝を変えてはいけません。四分六分で迷うときでも最初の枝を変えるのは慎重であるべきでしょう。そして、三分七分で迷うときには最初の枝から別の枝に解答を変える、くらいの心構えが良いと思われます。
試験後に、「変えた方がよかった」と思うか、あるいは「変えなければよかった」と思うかは結果論ですが、ともかく、試験の終了間際の見直しで迷った時は自分の最初の直感を信じることが、結果的には良い選択になることが多いようです。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月17日

≪第3.同じ枝が連続しても気にしない≫
解答した枝が、例えば“2→3→2→2→3→4→4→4→4→4→?”という感じで、「特定の数字が連続」したとき、「4が連続しすぎるのは変だ」とか、「1と5が出てこないのは変だ」と思いがちです。こういうことを気にして、次の問題の解答は「4ではないだろうか…」と思っているのに、未だ出ていない「1や5を選ぶ」ようなことは、絶対やってはダメです。
特定の数字が連続するのも連続しないのも、単なる自然確率です。また、「3,4に比べて1,2,5が多すぎる」ので、「3,4をもう少し選ぼうか…」なんてバカなことを考えてはいけません。

このような“特定の数字が並ぶことで迷ってしまう”ことは、多くの受験者が経験しているようです。本試験の問題は、一つ一つが別々に作成され、それらを科目ごとに並べているだけですから、解答枝の同じ数字が連続しても何ら不自然ではありません。
よく考えてみると、これは当たり前のことなのですが、一年に一回しか巡ってこない短答式試験の合否を掛けた本番の試験会場では、終了時間が迫ってくると不安や迷いが走馬灯のように去来してきます。このため、ついつい気の迷いが生じて解答枝を変えてしまいがちです。
もしも緊張して焦りが出ているかなと感じたら、深呼吸して落ち着いて、冷静に最後の見直しをすると良いでしょう。自分の実力を信じることが第一であり、信じる者は救われることを肝に銘じましょう。

…ということで、試験「本番での心構え」を申し上げました。短答式合格ラインまで、「あと2,3点!」という人は、上記の3つを本番で実行すれば、きっと「2,3点は得点アップ!」します。
信じる者は救われます。本番まで残された日々、健康と体調管理に留意して頑張ってください。

第5話.短答試験本番の前日の注意点
2019/4/17公開
いよいよ弁理士試験の本番が目前に近づいてきました。
次の試験は…来年までありませんから、悔いのないようにしましょう。

今回のお話のタイトルは、「短答試験本番の前日の注意点」ということで「前日」に焦点を絞っていますが、「前日までの数日間」と読み替えてください。前日になって急に後述する「前日の注意」をやっても、準備不足等で上手くいかないことは以下の解説で明らかになります。

短答試験本番の「前日までの数日間」の注意点は、下記の4つです。
・新しいことは勉強しない、
・試験場で1時間で見直すための準備をする、
・集中力を高める準備をする、
・合格できると信じる。
これらを順番に、過去のブログの記事を引用しながら解説します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪第1.新しいことは勉強しない≫
いまさら、新しい本を読んだり、今まで勉強していなかったことを始めてはいけません。頭が混乱するだけですから、やめましょう。今までやったことの復習で充分です。

短答式本番前の数日間は、これまでの勉強の復習で十分です。一度は覚えた条文だけど忘れかけている、一度は理解した立法趣旨だけれど理解が曖昧になっている、そういう記憶や知識をリフレッシュするのが、本番前の数日間の勉強では最も効率的です。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪第2.試験場で1時間で見直すための準備≫
試験開始前の1時間で、さぁ~っと復習できる資料を準備しましょう。「法令集で復習する」というなら、それを用意するだけで充分です。
でも、もう少し凝りたいなら、「切り貼り、コピーを駆使して1時間で復習できる資料」を作りましょう。この資料は、試験会場に入ってから、試験開始までの待ち時間に有効活用できます。

「試験場で1時間で見直すための資料」は直前に役立つだけでなく、その作成のための作業自体が勉強になります。コンパクトにまとめるための資料や情報の取捨選択、切り貼り作業、書き写し等が勉強になりますから、直前復習用資料が完成したらそのコンテンツの大半は記憶に焼き付けられ、本番で短答問題を解くときに脳裏に復元される、という効果があります。
他人の作成した直前復習用資料をコピーしただけ、あるいは、本屋さんで市販の直前復習冊子を入手しただけでは、このような資料「自作」の効果はありません。試験会場に入ってから、試験開始までの待ち時間に活用するための直前復習用資料を本番前の1週間かけて作成する、という試験本番の“準備”法をお勧めします。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪第3.集中力を高める準備≫
前夜は、よく睡眠をとってください。試験での集中力は、前夜の睡眠で大きく左右されます。試験では、「集中力なくして合格点は取れない」と考えてください。
私の場合は、
・就寝の1時間前にワインをコップに一杯飲み、
・お風呂に入って、たっぷり温まり、
・酔いが回ったところで床に就き、
ぐっすり眠りました。
前夜は興奮して眠れないこともあるようですが、アルコールを入れて風呂で温まると、一気に酔いが回って簡単に眠れます。

前日になって急に早寝しても、目がさえて眠りにつくことはできません。眠れないからといってアルコールを取り過ぎると、逆に二日酔い気味になってしまいかねません。数日前というより、ずっと前から試験当日の時間スケジュールに合わせて就寝、起床できるように生活習慣化しておくことが必要です。
普段からタバコを吸う方は、試験中にニコチン禁断症状が出ないように対策する必要があります。私は試験時間中のニコチン禁断症状で集中力が途切れないようにするため、最終合格した年の一年間は禁煙しました(最終合格後に喫煙が復活しましたが…)。今はニコチンを経皮吸収できるパッチ(経皮吸収ニコチン製剤)があるので、準備しておくと良いでしょう。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪第4.合格できると信じる≫
自分は、今年は、どんなことがあっても「必ず合格できる」と信じてください。自分を信じる者は救われますが、自分を信じない者は絶対に救われません。
「合格できる、合格できる、…」と呪文を唱えても良いし、「よっしゃーっ! 今年は合格するぜぇ~!」と気合を入れても良いです。この“気合い”によって、運が自分に向かってきます。

先ずは短答式試験に合格してください。ここを突破することで“次のステージ”が見えてきます!

第6話.短答試験本番の当日の注意点
2019/5/7公開
いよいよ短答式試験の本番が近づいてきました。本番試験の、その当日の注意点を申し上げましょう。
先ずは、最近の弁理士試験では、その重要度が論文式から短答式にシフトしていますから、ここを弁理士試験の天王山と心得てください。この辺りの話は、第1部の第5話と第6話で詳しく解説したので繰り返しません。

試験中は、自分自身のマインドが安定していることが何よりも重要であり、自分なりに“マインドを安定させるコツ”を見つけておくのも良いでしょう。
例えば、試験開始ですぐに問題に取り組むことはせず、先ずは全てのページを1問につき数秒の時間をかけて縦覧しておくというのは、解答ペースの見通しを付けつつ、マインドを落ち着かせる意味でも効果的です。
また、第1問から順番に解いていく必要もありません。暗記しているか否かが勝負の問題(どちらかというと文章が短い問題)を先に解いて、事例的な設問を分析して解答を考える時間が必要な問題(どちらかというと文章が長い問題)を後回しにするのも、時間配分という点で効果的です。

上記の点に留意した上で、試験当日の注意点は、下記の4つです。
1.試験の話をしない。
2.早めに到着する。
3.雑音にイライラしない。
4.見直しは自信のある問題からやる。
以下、これらを私自身の体験も含めてお話しします。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪当日注意1.試験の話をしない≫
試験会場で顔見知りに会ったら、「おはよう!」と挨拶して、その後は無視しましょう。問題の出しっこや、不明点を教えあうとか、そういうことは止めましょう。気持ちを不安定にさせるだけで、良いことは何もありません。
話しかけられても、「いま、取り込んでいるから…」とか、テキトーに答えて無視しましょう。

今まで学んできたことを復習することと、マインドを安定させることに徹しましょう。人間関係を大事にして試験会場で知り合いの話に付き合って時間を費消する、なんて止めましょう。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪当日注意2.早めに到着≫
できれば試験開始の1時間以上前に入る。そして、前日に用意した「1時間で見直しできる資料」に目を通しましょう。
周囲の雑音をシャットアウトするために、ヘッドフォンをつけてクラシックを聞いたり、耳栓をつける、というのもお勧めです。ノイズキャンセラー付のヘッドフォンも便利です。
そのとき、知り合いに声をかけられたら、「ヘッドフォンを外さない」で、テキトーに応対して、あとは無視して残り時間を“見直し”に使いましょう。

知り合いとの会話が5分、10分と続くと、それ自体が無駄な時間となります。せっかく前日までの直前対策で準備した「1時間で見直しできる資料」が活用できません。さらに、そこで「時間を浪費した」という気持ちが生まれてマインドが不安定になりやすいので、二重の意味でマイナスです。
人間の記憶は、いったん覚えた後の時間経過とともに指数関数的に忘れていきますから、直前の復習は極めて重要です。直前の10分間の復習は、一か月前の一日分の勉強に相当すると言っても良い。この貴重な時間を大事にしましょう。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪当日注意3.雑音にイライラしない≫
試験が始まったら、周囲の雑音にイライラしないことが大切です。
例えば…
・後ろの席に、落ち着きの悪い奴が座って、ガタガタと音を立てる、
・前の席に、ゴホゴホと頻繁に咳をする奴がいる、
・隣の若い女性がミニスカートで、ちょっと見えそうになる、
なんてのに惑わされてはダメです。
集中力を欠いて試験を受けたら、「確実に2,3点は下がる」と覚悟してください…それくらい集中力は大切です。

私は1回目の受験で短答式(当時は多枝選択式)合格、論文不合格でしたが、2回目の受験では短答式不合格でした(3回目の受験で短答・論文・口述の全てで合格)。この2回目の短答不合格の原因は、根本的には勉強不足と短答試験を甘く見ていた点にありますが、付随的な原因として「背後の席からの雑音にイライラした」という事情と、私自身の“禁断症状”問題がありました。
試験開始後、暫くすると、背後の席の受験生がボソボソと小声でしゃべり始め、それが延々と続いたのです。何を話しているかと言えば、問題文を最初から最後まで小声で読んでいて、それが耳に入ってくるのです。
試験後にわかったことですが、背後の受験生は本来の受験生ではなく“試験問題の再現屋”と呼ばれる業者さんでした。当時は試験問題が非公開だったので、受験関係の出版社等は受験生として再現屋を潜り込ませて、テープレコーダーに問題文を録音して再現し、本試験の「再現問題集」として出版・販売していました。私自身も、この再現問題集を購入して重宝していたわけですが、その再現屋がたまたま私の背後の席だったということです。
抗議の意を込めて肘でドンと後ろの席を叩くと、少しの間は静かになるのですが、やがてまたボソボソと小声が聞こえてくる、という状態でした。この小声を無視しようとも努力したのですが、話している内容が興味のないテーマだったら気にならなくても、聞こえてくるのはまさに短答式の試験問題そのものですから、どうしても気になってしまいます。
これに輪をかけたのが、私自身の“禁断症状”でした。一日当たり30本から40本のタバコを吸っていた愛煙家の私には、我慢しても禁断症状が出てきてしまいます。背後の席の雑音と、タバコの禁断症状から襲ってくるストレスが、私のマインドを不安定にしたのは言うまでもありません。
ということで、受験者の皆さんには、万一の事態に備えて、なるべく高性能の耳栓を用意する一方、愛煙家の方には経皮吸収ニコチン製剤を貼っておくことをお勧めします。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年05月18日

≪当日注意4.見直しは自信のある問題から≫
全問の解答が終わったら、試験終了まで見直します。そのとき、見直しは「自信のある問題からやる」ことが大切です。自信のある問題は確実に得点しておくことが大切であり、ここで取りこぼしがあると、合格は遠のきます。
そのためには、最初に解答するときに、自信度に応じてA,B,Cなどのランクをつけておくと良い。そして…全問の解答が終わってA(自信あり)の問題が例えば7割を超えていたら、Aの問題だけを見直せばよい。

「第4話.短答試験本番での心得」のところで、心得の2番目として、解答が一巡して残った時間で見直しをしたときに「迷ったら最初の直感でいく」ことが大事と書きました。見直しは自信のある問題から取り組むべきですが、見直しで迷っても安易に解答を変えるべきでない点には注意してください。

…ということで、私からの短答式試験のためのアドバイスは「これでおしまい」です。
このアドバイスが、「あと一歩で短答式試験の合格ラインに届く」という人の役にたちますよう、お祈りします。

第2章 論文試験

第1話.合格の信念が結果を左右する論文式試験
2019/5/23公開

短答式試験には合格できたでしょうか?
合格基準点に達していなかった人は、今年の試験は終わりましたから、論文試験の頃まではお休みしましょう。
年がら年中、同じようなペースで勉強ばかりしていると、知らず知らずに受験がマンネリ化します。論文試験までの40日間くらいは受験勉強から離れてリフレッシュし、来年の合格のための受験戦略を練りましょう。長丁場の試験ですから、来年の最終合格のためにはメリハリが重要です

合格基準点に達していた人は、論文試験本番まで全力で突っ走りましょう。万一、自己採点のミスなどで合格発表日に自分の受験番号がなかったとしても、それは気にしない。今は合格しているに違いない、と考えて走りましょう。そして、合格発表日に残念ながら不合格だったことがわかったときは、その時点で今年の論文試験のための勉強を終了し、来年のためにリフレッシュを図りましょう。

いきなり精神論で恐縮ですが、「必ず合格する!」という強い信念なくして論文式試験には合格できません。合格の信念があれば必ず合格する、というわけではありませんが、合格の信念なしに合格することは有り得ません。最難関の国家試験の一つなのですから、生半可な気合では合格できません。

論文試験において、直前一か月の追い込み勉強は、非常に重要です。
仕事を持ちながらの受験という方も多いでしょうが、可能なら連続休暇を取って集中勉強したい。有給休暇はもちろんのこと、職場に試験準備休業(無給)のような制度があるなら遠慮せずに取得すべきでしょう。
長期の休暇/休業は職場の仕事にとっては支障となります。しかし、貴殿の人生をかけた弁理士試験の論文試験本番が迫っているのですから、可能な限り職場の理解を得て、非常時の体制で取り組むべきです。万一、職場の上司や先輩が露骨に嫌な対応をしたら?…気にしなくても良いと思います。そういう職場は早晩、見切りをつけて辞めることになるでしょうから、気にすることはないでしょう。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年06月18日

幸運は掴み取れ! 資格は信念と気合なしに獲れない!
弁理士試験の論文式まで、あと2週間になりました。
短答式をパスされた人は「今年、必ず合格する!」という気合でがんばっていますか? それとも、「私なりに、がんばります!」という感じでやっていますか?

まさか、「短答式に合格したので一安心」ということで「とりあえず、今年も論文を受けられるので、やってみるか…」なんて方は、いませんよね? 試験に合格するためには…「なにがなんでも合格する!」という、燃え盛るような強烈な信念が必要です。
そして、この「強い信念があれば、合格はグッと近づく!」のです。

試験は、合格すること(だけ!)に意義があるのであって、「受験することに意義はない!」のです。受験するだけで合格できないなら、時間と労力と受験料の無駄です。どこぞの男爵は、「オリンピックは参加することに意義がある!」なんて言ったそう。しかし、「受験は違います!」結果が全てであり、「私なりに頑張った!」なんて甘いこと言ってちゃダメです。

受験したが合格できなくて、そういうときに「惜しかったね」とか、「頑張ったんだから(落ちても)良いじゃないか」とか、そんな「慰め言葉は、ドブに捨ててしまえっ!」です。
試験は、合格しなければ無価値です。いや…「合格できなければ、マイナス価値」です。少なくとも「時間と労力と受験料が失われる!」からです。

今年の試験に、「なにがなんでも絶対に合格するっ!」という「必勝の信念!」を持って、これから本番まで全力で突っ走ってください。そうすれば、合格の栄冠は…必ず貴殿の手中に飛び込んでくるはずです。

貴殿の「幸運を祈ります!」
…じゃなくて、貴殿自身の必勝の信念と、本番までの努力で「幸運を掴み取る!」ことができますようお祈りします。

第2話.論文試験の「初」受験者に有利なところは?
2019/6/4公開
今回のテーマは、論文式の「短期決戦に活路があるか否か?」です。まずは、過去の「ほんやら日記」を再録します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年06月07日

今年の弁理士短答式の試験(一次試験)合格者は2678名だそうです。
…多いですね。私の受験時代の全受験者数と同程度です。このくらいの人数規模の試験になると、必然的に「合格の秘訣は変わる」と思います。
そこで、ちょっと考えてみると…

まずは、「短期決戦に活路があるか否か?」です。言い換えると、「今年は短答対策だけをやってきた。論文の勉強はまだまだ…」という人に、「合格の可能性はあるか否か?」という問題です。

結論から言えば、「論文対策なるものを全く手がけてない人も、充分に合格可能性あり!」というのが今どきの試験傾向でしょう。
何年も前の「論文試験を一週間かけてやっていた時代」では、“論文テクニック”が必要でした。しかし今は、問題に対する「解答を書くだけの日本語力」があれば良い。
つまり、「論文を作成するための勉強や準備」の必要性が大幅に低下しており、「問題を正確に把握し、解答を導くチカラがあれば良い」ということです。もう少し言えば、「短答合格に必要なチカラ」と、「論文合格に必要なチカラ」が似通ってきた、ということです。

ということで、「今年は短答対策だけをやってきた。論文の勉強はまだまだ…」という受験初心者も、「今年こそは論文を通りたい!」という受験のベテランも、「合格の可能性は、ほとんど変わらない」ということです。むしろ、受験初心者は余計なことを考えない(考えるだけの知識がない?)ので、「本番で題意把握をミスしない」ということから、実質的には有利と思います。

受験のベテランは…色々なことを知っている(勉強し過ぎ?)がゆえに、本番で考えすぎて、「書かなければ良いことをゴチャゴチャ書いて墓穴を掘る」ということが少なくない。本番で「ゴチャゴチャ書いてはダメだ!」と思っていても、受験のベテランは「不安感」にさいなまれ…結局はゴチャゴチャ書いてしまうのです。

ということで…「今年は短答対策だけをやってきた。論文の勉強はまだまだ…」という「今年、初めて論文を受ける」人は、“チャンス!”ですので、短期決戦で活路を見出してください。

上掲のブログから汲み取って頂きたいのは、
・法令に則って設問に解答すれば合格
・失点をなくせば加点がなくても合格
・頭でっかちの尻切れトンボは不合格
という3点です。
これらを順番に解説しましょう。

法令に則って設問に解答すれば合格

弁理士法第10条第2項には、論文式による試験科目が「工業所有権に関する法令」と明記されているのですから、論文式試験は“法令に則って設問に解答すれば合格できる”のは当然です。
問題文の設例に法令の規準や規範を当てはめて解答するわけですから、根拠条文は具体的・直接的に明示することが不可欠です。例えば、特許発明の技術的範囲の解釈を問う問題の解答で「願書に添付した要約書」に言及するときは「70条3項」と明記すべきであり、単に「70条」と書いても答えになっていません。
ここで、根拠条文「70条3項」の正式表記は「特許法第70条第3項」ですが、特許法の問題であれば単に「70条3項」と書けば十分です(時間節約のために略式記載は必要なこと)。ただし、実用新案法の問題に対する解答の場合は、「26条で準用する特70条3項」と書くべきであり、単に「70条3項」と書くと実用新案法には実在しない条文を根拠にした、という結果になります。

失点をなくせば加点がなくても合格
問題文をよく読み、問われていること“のみ”に対して正面から答えることで合格できます。巷で言われる〝加点対象”のようなものに惑わされず、設問に対してコンパクトに解答するのが合格の第一歩です。上掲のブログ記事(2007年06月07日付)において、太字で強調したところに留意してください。

頭でっかちの尻切れトンボは不合格
この「頭でっかちの尻切れトンボ」の意味は、ご理解いただけるでしょうか。立場上、本試験における体験として解説するのは憚られますので、私が答案練習会の講師をしていた時の体験で解説します。
例えば、甲の特許出願に係る発明を乙が実施している場合、乙が有する先使用権の成立要件などを5つの設問(1)~(5)として問う事例問題において、設問(1)に解答する前に、先使用権の定義や制度趣旨を滔々と述べ、その後で設問(1)から順番に解答していくような答案をたびたび見かけました。このような答案は、設問(3)か(4)辺りで息切れし、設問(5)の最後まで解答できていないことが多かった。
これは解答のための時間及び労力の配分ミスであり、時間切れで充分に書ききれなかった設問(4)、(5)の減点、失点は少なくない。そして、この減点、失点分を定義や制度趣旨の論述による加点(?)分でカバーできたかというと、残念ながらカバーできていません。むしろ、定義や制度趣旨の説明は問われていないので、その論述による加点分ゼロと考えて良いでしょう。
「頭でっかちの尻切れトンボ」の答案は、まさしく竜頭蛇尾(頭は竜のように立派で、尾は蛇のしっぽのように尻すぼみになること。)であり、不合格になる可能性が高いでしょう。

第3話.基本に忠実に解答すれば合格できる!
2019/6/24公開
今回が、論文試験本番前の最後の記事となります。前回に引き続き、まずは、過去の「ほんやら日記」を再録します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年06月21日

WEDGEという月刊誌を読んでいたら、中日ドラゴンズの山本昌投手の記事がありました。阪神ファンとしては“こういう試合があったので好きになれない!”のですが、「基本に忠実に」という話に魅かれました。

プロで開花するキッカケになった指導者からの助言は、「ストライクを投げろ」、「できるだけ前でボールを放せ」、「低めに投げろ」、の3つだけだったとか。これは、知財の仕事はもちろん、弁理士試験にも共通する…「物事の基本」であると思います。

論文式の試験日まで残り10日となり、追い込みの時期です。創英の受験生は、試験休暇に入る人も出ています。この時期こそ、「基本が大切」であり、ちまたに出回っている予想問題なんて気にしてはダメです。
例えば、昨年あたりから特許庁は先使用権の利用を進めており、そういうところから「今年は先使用権がヤマだ!」
ということで、様々な事例の予想問題が出ているかもしれません。

でも、「そういう予想事例問題は気にしない」のが合格の秘訣です。
理由は、
第1に、事例の予想問題が本番でズバリ出る確率は、あまりにも低いこと、です。
「先使用権の範囲内での何らかの問題」ということなら、一定の確率で出題の可能性があります。しかし、「事例の予想問題が当たる」ことは非常に稀であり、そのようなレアーなケースを狙って本番直前の時間を消費するのはマイナスです。
第2は、仮に先使用権の事例が出ても、その内容は微妙に外れていること、です。
事例の予想問題をやり過ぎていると、本番で「似たような問題が出たときに、無意識に予想問題の解答イメージに引っ張られて、題意から外れた解答をしてしまう」ということです。これが原因で、「予想が当たったのに落ちる」人が多いのではないでしょうか。

ということで、「基本に忠実な勉強」をしましょう。「先使用権が今年のヤマ」であるなら、その発生要件や法律効果、変動などを、条文を参照して整理し、“どのようなタイプの問題が出ても、それなりに解ける”というような準備をしておくことです。
そのとき、「条文を丹念に参照する」ことと、「条文の構成を、キチンと理解しておくこと」が大事です。
その理由は、
第1に、発生要件や法律効果、変動などは全て条文に書いてあること、第2は、条文は本番で参照できるので、条文の構成を理解していれば問題を読んでから条文を読むことで、解答の糸口が見出せること、です。

ともかく、試験に合格するには基本が大切です。弁理士試験は、予想問題を当てた人が合格できる試験ではありません。弁理士試験は、基本的な法律解釈を問う普通の事例の問題を、基本に忠実に解答すれば合格する試験です。

肩のチカラを抜いて、「自分は合格できる!」と暗示をかけて、頑張ってください。

弁理士試験は難関の国家試験ですが、「基本に忠実に解答すれば合格できる」という話はよく聞かれます。一種の決まり文句ですが、これには一つの条件があります。“条文と逐条解説をベースとする勉強法で短答式試験に合格できた論文受験者”であれば、基本に忠実に論文問題に解答すれば合格できる、ということです。

論文の試験問題は一般的に長文であり、2ページにわたる場合もあります。問題文が長文になっているということは、問題文を素直に読み取って、法律の条文に定められた要件や規範を当てはめていけば、合格点が取れるということです。問題文から読み取れない事柄や、設問で問われていない事項を論じる必要はありません。
ところが、受験者の論文解答には、問題文から外れた内容をダラダラと書くものが少なくない。本試験の問題文に「設問で聞かれていないことを検討する必要はない」という趣旨の一文が添えられることがあるのは、正解の筋道から外れた無意味な解答文(加点狙いの無駄な作文?)が少なくないことを示唆しています。

論文試験の問題文には、無駄な文章や余計な語句は含まれていません。文章の一言一句が全て解答に必要なものと心得て、素直に読み取る必要があります。その上で、法定の要件や規範を当てはめて設問に答えることになります。
問題文は一般的に長文ですが、正解の解答文はコンパクトにまとまることが少なくない。もちろん、設問中で制度の趣旨や立法理由を問われたときは、やや長文の解答文となりますが、一般的にはコンパクトに記述できます。それゆえ、解答文の作文自体に必要な時間は、通常は長くならないですから、作文に取り掛かる前に、問題文の分析、設問に対する解答の要点の抽出、根拠条文のピックアップなどを行うべきです。
隣の受験者が早々に解答用紙に書き始めた様子を目にすると、妙に焦る気持ちが出て問題文の分析等が不十分なまま作文を始めたくなります。自分の時間配分のペースを守りながら、自信を持って解答すると良いでしょう。
このような時間配分のコツや、問題文の分析・解答の要点の抽出・根拠条文のピックアップなどの要領を自分なりに確認する目的で、受験予備校で模擬試験を受けてきた方も少なくないでしょう。その成果を、ぜひとも本番で活かしてください。

最後に一言。今年(2019年)は特許法と意匠法で大きな法改正がありました。特に意匠法は、意匠の定義(2条1項)の大きな改正を含んでおり、一部改正というより大改正と言って良いでしょう。これら改正の対象となった条文周辺は、論文で問われるかもしれないと考えている人も少なくないでしょう。改正条文の辺りが試験で問われやすい(特に趣旨、理由の解説を求める問われ方)のは事実ですが、改正法自体は施行されていませんので試験の範囲外です。もしも改正対象の条文周辺が出題されたなら、その点は混乱しないように解答すべきです。

論文試験の本番まで、残り一週間です。
貴方の頭上に、幸運の女神が舞い降りることをお祈りします。

第3章 口述試験

第1話.口述式試験にドレスコードはあるのか?
2019/8/28公開
結論から申し上げると、口述式試験に既定のドレスコードはありません。そして、現状ではドレスコードが合否判断で問題になることはありません。では、ドレスコードがないのなら、どんな服装であっても良いのかというと、合格するためには相応の服装や身だしなみが必要になると考えた方が良いでしょう。
受験者の大半は、男性ならスーツにネクタイ着用、女性もスーツ姿が多いですが、ごく一部にノーネクタイの受験者もおられて、私も本番で遭遇した経験があります。中年の男性の方でしたが、その方は着席直後から右足を左膝の上に載せる形で足を組んでおられました。もちろん、これで減点したわけではありませんが、試験官の立場としては気分が良いはずはありません。自分では意識しなくても、質問の仕方や返答への対応がパターン的になり、いわゆる助け舟を出すタイミングが遅れがちになるのは、試験官といえども人間(感情の動物)である以上、やむを得ないことでしょう。
この方に、結果的に合格点を付けたか否かは申し上げませんが、その場の状況や雰囲気に見合った服装や立ち居振る舞いができないと、試験の場では不利になることは避けられないでしょう。特別にスーツを新調する必要は全くありませんが、ワイシャツにネクタイを締めてジャケットを着用する、という普通の身だしなみは、国家試験の口述式試験を受けるに際しての大人としての当然の心得であり、その意味では社会常識が試されていると考えた方が良い。そもそも、試験官が普通にスーツ・ネクタイ姿でいるのに、受験者がカジュアルファッションでは釣り合いが取れないでしょう。
口述式試験の実施時期は、暑さ対策で服装や着こなしがラフになりがちな夏ではなく、秋が深まった涼しい頃ですので、あれこれ身だしなみで迷うこともないはずです。

緊張すると冷や汗が噴出してくる人、ガタガタと貧乏ゆすりが始まる人、言葉が詰まって呂律が回りにくくなる人、さらに無意識に腕組みして斜めに構えて話し始める人もいます。このような仕草は試験本番の緊張感から生じるものと思われますが、この仕草そのもので減点されることはありません。
しかし、これが原因で受験者自身が実力を充分に出し切れない状況が生まれるのは不幸です。この「おそれ」のある人は、試験本番で緊張しないための準備を充分にやっておくべきでしょう。そのような「準備の王道」は条文再確認から始まる基本事項の復習と、口述練習会をこなして場数を踏んでおくことでしょう。これらについては、後日、解説します。

第2話.口述試験に落ちる人の類型は3種類
2019/09/30公開
これまでの試験で口述試験に落ちてしまった人を観察すると、下記の3つの類型に整理できます。
第1の類型は、そもそも試験科目の法律の知識と理解が口述試験の合格レベルに届いていなかった人です。
例えば、論文式試験の後に遊び惚けて法律の知識が綺麗さっぱり脳味噌から消えてしまっていた人、論文式の合格発表後に口述試験のために条文と趣旨を再確認するという基礎的勉強を怠った人、論文試験は山勘が当たって合格しただけなので最終合格レベルの知識と理解がもともと備わっていなかった人、等が含まれます。
こういう人は、口述試験に落ちるべくして落ちたと言えますから、反面教師としましょう。
第2の類型は、試験官との巡り合わせが悪く、口述試験本番で本来の実力が発揮できずに落ちてしまった人(落とされた人)です。
本来は、このような事態は許されないことですが、10年~数年前の一時期、特定科目の特定の口述試験官が担当した試験室において、不合格率が限度を超えて高くなったと言われています。もちろん、試験官によって合格率に一定の格差が生じるのは当然ですが、許容限度を超える格差は国家試験における衡平の理念に反しますから、看過できない問題です。
制度改革によって合格者が急増した時期と重なっており、当該人物が試験官から外れたことで問題は既に解消していますが、このような試験室による合格率の限度を超えた格差(受験者から見ると当たった試験官による不公平)が今後、二度と生じないことを願いたい。
第3の類型は、合格レベルの知識と理解を持っていて、普通の試験官に恵まれながら、試験本番で本来の実力が発揮できずに落ちてしまった人(落ちる原因を自ら招いた人)です。
受験者としては、この第3の類型に嵌らないようにしたい。では、どういう人がこの類型に嵌まりやすいのか。私が本試験の試験委員を務める前の2006年に、ブログにたとえ話を書いていますので、それを引用します。

「ほんやら日記」からのピックアップ
2006年09月02日

明日(21日)は、弁理士試験の論文式合格発表日です。たぶん、800人くらいの受験者が「合格の喜び」を味わうのでしょう。でも、ここで安心していると、次の口述試験でコケるかも!? そう言うと「縁起でもないことを言わんで下さい!」と怒られそうです。でも、ここで何十人かは確実にコケます。だから、準備を整えてください。…で、ずっと昔の私が受験界に関与していた頃の話。「あいつがコケるとは、信じられない」という人が、時々(けっこう?)いました。

口述試験は、難しい質問は出ません。短答試験と論文試験に合格した人なら、落ちるはずがない。しかし、口述試験は口頭/対面で受ける試験です。そういうことで、落ちる人が出る。落ちそうに見えて落ちる人は、それはそれとして、周囲から見て「落ちるはずがない」と見えるのに落ちる人は、一つの傾向があると思います。
ひとことで言えば、「合コン上手の恋愛下手」です。

「今夜は、この場だけを楽しめればよい」と気楽にやれた合コンでは、モテモテで大成功!…するのに、一対一の恋愛では「失敗したらどうしよう」と緊張して失敗する…そういうタイプです。
口述試験で落ちる人に共通するのは「あがる」ということです。口述試験では、誰でも多少は「あがる」ものです。しかし、これが一定の限度を超えると、例えば、試験官の質問が聞こえなくなったり、口論のような雰囲気になったり、判断力がなくなってしまったり、という緊張状態になるようです。

さて…大丈夫ですか? 合コンではモテモテ、でも…一対一の恋愛ではコチコチ…映画「男はつらいよ」の寅さんタイプは、気をつけてください。
もし、試験場で「やばい!」と感じるくらいに緊張してしまったら、大きく3回、腹の底から深呼吸して、 好きな異性を思い描いて“チュッ!”とキスする仕草をする、と良いでしょう。
きっと、緊張感がほぐれて、合格の女神が微笑んでくれます。
(^^)

第3話.口述試験は、一問一答の「掛け合いゲーム」
2019/10/11公開
今日(本稿執筆の日)は、2019年10月11日です。口述試験は明日、10月12日からの予定でした…が、最強クラスの台風が関東地方を直撃するため、延期となりました。
そんなことでドタバタしているに違いない受験者の方々に合格の秘訣を二つだけ、アドバイスします。
≪口述合格の秘訣1.条文を読んで“おさらい”しておくこと≫
≪口述合格の秘訣2.本番で“柔軟さを忘れない”こと”≫

この2点については、私が本試験の試験委員を務める前の2007年に、ブログに書いていますのでコピペします。
(本来なら、私が本試験の試験委員をやった時の体験を交えて書きたいのですが、さすがにそれは許されませんので、ブログを引用します。もっとも、試験委員の体験談としてきたとしても、内容は実質的に同じになると思いますが。)

「ほんやら日記」からのピックアップ
2007年09月20日

口述試験は、一問一答の「掛け合いゲーム」を楽しめば、必ず…

今年も、弁理士試験論文式の合格発表がありました。昨年より減って、589名だそうです。創英では、「複数の合格者輩出!」というのが、もう何年も続いています。
最後に残った口述式に合格すれば、受験生活に別れを告げて弁理士です。創英では…今年は5名が口述式の試験を受けます。

この口述式に合格する秘訣は…二つだけです。

≪口述合格の秘訣1.条文を読んで“おさらい”しておくこと≫
理由は、「基本的な知識を確実にしておくこと」ですが、実は、「試験本番の最中に“あがらない”ための勉強」
です。基本の“おさらい”が自分なりにやってあると、気持ちに余裕が出るので“あがる”ことが少なく、「試験官の質問が聞き取れずに立ち往生する」ということがない。

条文を読んで“おさらい”しておくことは、①基本知識を確実にする上でも、②気持ち的・精神的な安定感を得る上でも、大切なことです。

≪口述合格の秘訣2.本番で“柔軟さを忘れない”こと”≫
理由は、「硬直的であると、小石で躓く」ということ。口述試験は「試験官との一問一答の掛け合いを繰り返すゲーム」であり、この「試験官の質問の一つ一つが小石」であり、「柔軟でないと、小石に躓く確率が高くなる」からです。

このゲームの当事者は、試験官と受験者の二人であり、傍に見物人(もう一人の試験官と係員?)がいると思います。密室で対面するわけです。受験者は当然にコチコチに緊張しています…が、実は、「相手の試験官も、けっこう緊張している!」のです。
エラソーに、ふんぞり返った格好をしていても、内心は「変な質問の仕方をしてしまわないだろうか」と不安なのです。そして、やっぱり試験官は“変な質問の仕方をしてしまうことが、ままある!”のです。

試験官には、“あらかじめ一問一答の質問例と回答例を渡されている”し、“事前に目を通している”のですから、試験官はそれを忠実に言葉で話せば良い。しかし…なにかと格好を付けたがる試験官は、質問例として紙に書いてある内容を「そのまま読むのは芸がない!」なんて思って、「自分なりの言葉で意訳して話してしまう」ことがある。
そうすると、試験官の意訳を聞いた受験者は、内容を少し違えて理解してしまい、受験者なりの言葉で答えてしまう。すると…それを聞いた試験官は、またまた試験官なりの理解をしてしまい、相互の意識のズレが起こる。
試験官と受験者の双方が、相手の言っていることを理解しきれない状態に陥る。遂には、“試験官から受験者に聞き返す”ようなことになる。

小さな誤解が積み重なることで大きな誤解となり、最終的には「コイツ(受験者)は、法律を理解していないのでは?」という心証をもたれる…。あるいは、「私が説明しても理解できない、こういう受験者は弁理士の適性がない!」と思われる…。
これは、もう不合格の典型的パターンです。“一問一答の掛け合いゲーム”にならず、試験官はイライラしているのです。

試験官は、自分の質問の仕方が悪いとは絶対に思わない。それを理解できない受験者が悪いと思ってしまう。つまり、掛け合い“ゲームが続けられなくなったら受験者の負け!”なのです。

口述試験で大事なことは、「試験官の質問に対して、正しい内容で答える、ということではない!」と思って下さい。
口述試験で大事なことは、「試験官の質問に対して、試験官が求めている内容で答える、ということ!」です。
口述試験は、基本知識の量や正確性を試す試験ではありません。口述試験は、「法律問題の一問一答の掛け合いゲームを通して、受験者が弁理士としての対人の質疑応答能力があるか否かを試す試験」
です。

硬直的にならず、柔軟な気持ちで「試験官との一問一答の掛け合いを繰り返すゲーム」を楽しむことができれば、「必ず合格する!」と思います。ちなみに、この“掛け合いゲーム”を楽しむためにも、基本条文の“おさらい”が大切です(秘訣の1)。

口述試験の受験者の皆さん、これが最後のハードルですから頑張って下さい。

第3部 受験生活を乗り切り、不合格を乗り越える

第4部 弁理士を志望している方に「本音ベース」で贈る言葉

知的財産(知財)の仕事に興味を持ち、弁理士という国家資格にチャレンジすることを考えている方に、いくつかアドバイスを差し上げます。本音ベースで申し上げますので、耳障りに感じられる方もいらっしゃると思いますが、どうかご容赦ください(悪意はありません)。

私は、弁理士として36年間(2018年現在)にわたり仕事してきました。最初の4年間は都内の老舗・大手特許法律事務所の勤務弁理士として、その後の32年間は創英(および前身事務所)の所長弁理士としての立場でした。
弁理士の仕事の主なステージには、特許事務所のほかに企業がありますが、日本弁理士会の統計によると事務所勤務・経営の弁理士は全体の8割弱、企業勤務は2割強となっています。そこで、弁理士のメジャーな職場であり、かつ、私自身が体験してきた特許事務所の弁理士の立場から、弁理士を志望されている方にアドバイスを差し上げます。

このコンテンツの構成は、以下の通りです。
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緒言.弁理士資格を取得する価値は、いかほど?
第1話.知的財産および知的財産制度の将来性
第2話.弁理士の仕事と、その将来性
第3話.人工知能(AI)時代における弁理士資格の価値(前編)
第4話.人工知能(AI)時代における弁理士資格の価値(後編)
第5話.弁理士としての適性
結言.ホンモノになれたなら、弁理士としての将来は明るい!

緒言.弁理士資格を取得する価値は、いかほど?
2018/10/8公開

弁理士として知的財産の分野で生きていく道が、自分の将来の進路として好適な選択肢であるか否かは、簡単には言い尽くせない、たいへん悩ましいテーマです。この問題を具体的に紐解くためには、次の3点を検討する必要があります。

第1は、知的財産および知的財産制度の将来性です。
知的財産の中心(「核心」といっても良い。)は、特許制度で保護される発明、意匠制度で保護されるデザイン、商標制度で保護されるブランドの3つです。知的財産制度は、知的財産に対する独占排他的な支配権を媒介として、知的財産の保護と利用を図ることにより、新たな知的財産の創出を促進しつつ、産業の発達に寄与する社会的・法律的なシステムです。

結論から言えば、この世界から私有財産制が消えてなくならない限り、知的財産制度の必要性は高まることはあっても希薄化したり消滅したりすることはないでしょう。知的財産および知的財産制度の双方には十分な将来性があります。このテーマは次回の「第1話」で具体的に検討します。

第2は、弁理士の仕事と、その将来性です。
弁理士は、知的財産制度を専門とする国家資格者です。特許権などの知的財産権を取得したい方のために、代理して特許庁への手続きを行う権利化業務が弁理士の主な仕事です。また、知的財産の専門家として、権利化業務以外の各種の知的財産業務を行います。知的財産および知的財産制度の双方には十分な将来性があることを踏まえた上で、弁理士およびその仕事の将来性はどうなのかを考えます。
最近、人工知能(AI)が人間の仕事を脅かすのではないか、という議論が盛んです。弁理士に限らず、弁護士、医師、会計士なども同様で、若者の志望校選択や職業選択にも大きな影響を与えています。結論から言えば、弁理士としての仕事の一部は人工知能に概ね置き換えられ、他の一部の仕事は人工知能によって弁理士の直接関与する部分が削減されます。しかし、弁理士の仕事の骨格部分(本質的かつ重要な部分)は、人間である弁理士でしか為し得ない固有の仕事として残るでしょう。このテーマは、弁理士の仕事の骨格部分は何なのかという問題でもあり、「第2話」と「第3話」に分けて具体的に検討します。

第3は、弁理士としての仕事が「自分に適しているか否か」です。
弁理士としての適性があるか否かは、自分自身の能力や得手、不得手から考える一方で、自分自身の特性や特徴からも考えるべきでしょう。弁理士は、対人関係の中で仕事しますから、コミュニケーション能力が必要不可欠です。他方で、弁理士は一種の文筆家ですから、作文が不得手だという人は適性がありません。このテーマは、どのようなタイプの人が弁理士に向いているのか、という問題でもあり、「第4話」で具体的に検討します。

第1話.知的財産および知的財産制度の将来性
2018/10/15公開

知的財産には、物つくりの方法や新ビジネスのアイデアのほかに、絵画や音楽などの著作物などが幅広く含まれますが、産業上の観点でその中心となるのは、特許制度で保護される発明、意匠制度で保護されるデザイン、商標制度で保護されるブランドの3つです。このような知的財産そのものに内在する将来性は、盤石かつ鉄板と考えて良いでしょう。
なぜなら、人類が、より良い社会、より高い物質文明、より豊かな文化水準を求めていく限り、知的財産の創造と活用は着実に進化を続けていくからです。日常生活に欠かせない存在となったスマートフォンも、ネット通販の仕組みも、自動車や飛行機などの移動手段も、そして不治の病を次々と克服していく医療技術や医薬品なども、すべて人類の知的な創作活動の成果である知的財産によってもたらされています。そして、その具体的な実施態様として、新らしい製品や斬新なサービスが私たちに提供されています。

特許制度に代表される知的財産制度は、知的財産に対する独占排他的な支配権を媒介ないし手段として、知的財産の保護と利用を促進し、産業の発達と更なる知財の創造を図る社会的・法律的なシステムです。それゆえ、この世界から私有財産制が消えてなくならない限り、知的財産制度の必要性は高まることはあっても希薄化することはないでしょう。
知的財産は人間の知的な創作活動によって生み出されますが、そのためには様々な苦労が伴い、活動のための費用や労力、設備や道具も必要になります。つまり、知的財産の創出には諸々のコスト(広い意味でのコスト)がかかりますから、そのコストに見合う(むしろ、コスト以上の)報奨や利得が与えられない限り、人間は自ら創作の努力をすることがありません。そこで案出された社会的・法律的なシステムが、知的財産権を媒介ないし手段とした知的財産制度であり、その中心的な三本の柱が特許・実用新案制度、意匠制度および商標制度です(これらによる権利を総称して「産業財産権」と呼びます。)。

産業財産権は、創作活動の成果を独占排他的な権利によって保護、奨励している点では著作権と共通していますが、権利の成立において出願や審査を要件としている点で著作権と異なっています。知的財産権は無体財産権とも呼ばれるように、その実態が把握しにくい権利であるところから、発明やデザイン、ブランドなどの産業政策上で重要な知的財産については権利の成立条件などを法律で明確に規定しています。例えば、特許庁への出願、審査および登録の条件などを明らかにし、権利の効力や存続期間、さらに権利行使の要件なども具体的に定めています。

このように産業財産権制度に代表される知的財産制度は、鉄板かつ盤石の将来性がある発明、デザイン、ブランドなどの知的財産を対象として、最も効果的な仕組みで知的財産を保護し利用するための社会的・法律的なシステムですから、人間が人間らしく活動している限りは必ず必要となる制度です。したがって、知的財産そのものの将来性と同様に、知的財産制度についても、その将来性は全く揺らぐことがないと言えるでしょう。

第2話.弁理士の仕事と、その将来性
2018/10/22公開

弁理士の仕事に関して、日本弁理士会のホームページは次のように説明しています。
「特許権、実用新案権、意匠権、商標権などの知的財産権を取得したい方のために、代理して特許庁への手続きを行うのが弁理士の主な仕事です。また、知的財産の専門家として、知的財産権の取得についての相談をはじめ、自社製品を模倣されたときの対策、他社の権利を侵害していないか等の相談まで、知的財産全般について相談を受けて助言、コンサルティングを行うのも弁理士の仕事です。」
さらに、同ホームページでは、①特許出願が拒絶査定とされた場合の不服審判の請求や、特許の有効性について争う無効審判の請求などの手続き、②拒絶査定不服審判や無効審判の審決に不服がある場合に、その審決の取り消しを求めて知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起すること、③東京/大阪地方裁判所における特許侵害訴訟において訴訟代理人または補佐人として法廷活動をすること、等も弁理士の仕事に含まれるという趣旨の説明をしています。

第1話で説明した通り、知的財産および知的財産制度の双方には十分な将来性があるとして、弁理士およびその仕事の将来性はどうなのか、ここで考えてみます。日本弁理士会のホームページに書かれた通り、弁理士の「主な仕事」は知的財産権を取得したい方のために代理して特許庁への手続きを行うことです。この「主な仕事」に将来性があれば、弁理士の仕事の将来性は盤石です。

例えば特許について、弁理士の主な仕事は発明の権利化業務(特許出願など)です。発明は技術的思想の“創作”であり、かつ、この創作物から知的財産権を創り出していくという点で、弁理士の仕事には二重の意味での創造的な性格があります。これは、同じ士業といわれる弁護士、司法書士や公認会計士、税理士の仕事には見られない弁理士の仕事に“固有の創造的性格”であり、第3話で説明するように人工知能(AI)では代替えできないクリエイティブな仕事です。
さらに、弁理士の仕事の創造的性格は、知的財産を素材として知的財産権という法律上の権利を創り出すプロセスで多層化します。つまり、発明者による発明・創作段階では点の広がり(または狭いエリアの広がり)しかなかった具体的な技術を、権利化プロセスの初期段階(出願準備段階の特許請求の範囲を練り上げる過程)で線的あるいは面的に広がりのある概念的な技術思想にまとめ上げていく活動(多面的な知的財産権の創造行為)であり、これが弁理士の主な仕事です。

どんなに素晴らしい発明でも、特許化する際の弁理士の腕前次第で特許としての価値は大きく異なってきますから、弁理士の果たす役割は非常に大きい、ということです。弁理士の仕事の本質は、専門家としての叡智とスキルを知的財産の権利化過程に注ぎ込み、新規有用な知的財産の法的カバーとして過不足のない権利を確立することにあります。そして、かかる独占排他権の創造行為により、発明(知的財産)の保護と奨励と利用に貢献し、もって更なる知的財産の創造と産業の発達に寄与するところに弁理士の仕事の本質があります。
したがって、弁理士が知的財産「権」の創造主体、すなわち、創作者や事業者が創り出した知的財産を素材として、知的財産権という法律上の権利を創り出すクリエイターとして活動している限り、弁理士の仕事の将来性は揺るがない、と言えるでしょう。

第3話.人工知能(AI)時代における弁理士資格の価値(前編)
2018/10/29公開

最近、人工知能(AI)が人間の仕事を脅かすのではないか、という議論が盛んです。弁理士の仕事分野でいえば、明細書等の翻訳、特許性の判断、さらには明細書等の各種特許書類の作成・作文などの仕事が人工知能に置き換わり、未来社会では弁理士の仕事はなくなるのではないか、という極論まで出ています。弁護士、医師、会計士なども同様で、若者の志望校選択や職業選択にも大きな影響を与えています。
結論から言えば、①弁理士としての仕事の一部は人工知能に概ね置き換えられ、②他の一部は人工知能によって弁理士の直接関与する部分が削減され集約されるものの、③残りの部分(弁理士の仕事の骨格部分)は人間である弁理士でしか為し得ない固有の仕事として残る、と考えています。

この辺り(特に上記①および②の辺り)を、特許書類(特許明細書等)の翻訳の仕事を例に考えてみます。
例えば、翻訳は人工知能が最も得意とする仕事分野であり、近年でも人間が関与する部分はますます少なくなっています。しかも人工知能による翻訳は、和英/英和のようなメジャーな言語間に限らず、多種多様なマイナーな言語間の翻訳にも対応できます。翻訳を本業としている人にとっては大変な脅威ですが、複数の言語を使いこなして仕事している弁理士にとっても、バイリンガルの優位性が低下するという意味で脅威です。

特許翻訳は単なる科学技術文献の翻訳ではない、という点に留意が必要です。クレームや明細書等の特許書類は、法律と技術が混ざり合いつつ財産権の内容や価値を規定する法的技術文書であり、かつ、司法の場で企業等(特許権者と発明の実施者)が栄枯盛衰と存亡をかけて係争する際には、裁判所法廷での喧々諤々の議論により意味内容が解釈されていく法的技術文書です。したがって、科学技術文献の翻訳が完全に人工知能に代替えされた後であっても、特許書類の中で、特に権利の効力や有効性の解釈に晒されるクレームや明細書については、人間による翻訳仕事がすべて人工知能による機械翻訳に置き換わることはないでしょう。
そうは言っても、特許翻訳のベースが人工知能で対応できるとすると、人間が関わるのは特許翻訳の要所や節目(権利範囲や有効性の解釈のポイント)での技術用語の判断や文脈調整などが中心となりますから、翻訳を本業ないし主要業務としている人に関して言えば、それらの人工知能で対処できない高度な判断や調整ができる翻訳能力とスキルを培っていくことが必要になります。

次に、上記②および③の辺りの例として、発明の特許性判断の仕事について考えてみます。
特許性の判断には、大きく分けて新規性(対象発明が公知文献等の発明と同一か否か)の判断と、進歩性(対象発明が公知文献等の発明に基づき容易に想到できるか否か)の判断の2つがあります。結論を先に言えば、新規性の判断は人工知能が翻訳の次に得意とする仕事ですが、進歩性の判断は人工知能が不得手とする仕事と考えて良いでしょう。

判断対象の発明が、特許書類(クレームや明細書)において文章表現されている場合には、人工知能が発明を技術思想として把握する精度が高くなります。このため、特許公開公報のような公知文献に記載された発明との異同を人工知能が評価することも、一定程度までならば不可能ではないでしょう。近い将来、例えばGoogleのような先進IT企業が「発明の新規性判断ツール」をネットで公開し、弁理士や発明者がこのツールを特許出願前の新規性判断に活用する、というようなことが現実となるかもしれません。また、特許庁で審査官により行われている実体審査のうちの新規性の判断においては、人工知能で代替えできる部分が徐々に増えていくかもしれません。

ところが進歩性の判断は、公知の発明によって規定される技術水準から見た対象発明の構成の困難性を判断するものですから、対比すべき二つの発明の異同を評価する新規性判断とは事情が異なります。判断対象の発明が、たとえクレームや明細書で文章表現されていたとしても、公知の技術水準から見た容易想到性の判断(進歩性の判断)を人工知能で代替えすることは、不可能とまでは言えないまでも非常に困難性が高いでしょう。そもそも、公知文献の発明を人工知能が把握できたと仮定しても、この公知発明の組み合わせ等に基づき公知の技術水準を人工知能が理解するのは相当ハードルが高いので、近い将来に人工知能が進歩性を判断するようになることを想定するのは現実的ではありません。

進歩性の判断は、弁理士業務の節目で不可欠となる知的財産専門家としての知的活動です。出願前の発明相談や出願の可否判断、出願準備段階での権利化方針の策定、出願後の中間処理での対特許庁応答方針の策定、等々の権利化プロセスの節目で必須不可欠の判断となります。弁理士の仕事には、人工知能に代替えされていく種類の仕事と、代替えが困難であって人間である弁理士が担うことが求められる種類の仕事がありますが、弁理士の主要業務は後者の種類の仕事です。

人工知能に代替えできない後者の仕事こそが弁理士の本来業務であり、これからの弁理士は、このような仕事をバリバリ処理していく高度な実務能力と仕事スキル、さらには人工知能を使いこなして自らの武器としていく知恵を培っていく必要があります。

第4話.人工知能(AI)時代における弁理士資格の価値(後編)
2018/11/06公開

次に、弁理士の仕事が人工知能で代替え可能であるか否かについて、「第2話.弁理士の仕事と、その将来性」との関係の下で説明します。第2話では、『弁理士が知的財産「権」の創造主体、すなわち、創作者や事業者が創り出した知的財産を素材として、知的財産権という法律上の権利を創り出すクリエイターとして活動している限り、弁理士の仕事の将来性は揺るがない』とお話ししました。特許を例にして、特許事務所の弁理士による権利化業務をチャートで描くと、図示のようステップAからDまでの4段階になります。

≪第1段階:発明を把握するステップAの仕事≫
第1段階は、依頼人(企業、発明者)からの出願相談を受けて、弁理士が権利化対象の発明を体系的に把握していく仕事です(ステップA)。例えば、メモ書きや手書き図面のような文書による説明、対面あるいはテレビ会議での議論や質疑応答、試作品やデータ表を見ながらの発明者による解説、その他の多様なコミュニケーションによって発明者から必要な情報を得ることにより、弁理士は権利化すべき発明の構成や作用効果を把握します。

なお、出願企業の社内で知財部が活動している場合、出願の書式に沿ったスタイルで発明の構成や効果が記載された発明提案書/出願依頼書が用意されること多々あります。しかし、この書面のみで社外の事務所弁理士が発明を十分に把握するのは難しい場合が多く、面談等の多様なコミュニケーションが併用されることが多いです。さらに言えば、このように社内検討で発明提案書/出願依頼書が用意されている場合こそ、外部の弁理士は内部の関係者とは違った観点、別の視点で発明の構成や作用効果を検討し、多様なコミュニケーションを通して特許化の価値を高めていくことができれば、それは企業にとっては「頼りがいのある事務所の弁理士」になるわけですから、実力の発揮しどころと言えるでしょう。

このステップAの仕事は、出願にかかる発明の構成要件等を特定するための第1段階の活動であり、権利化業務のベースとなります。人工知能は技術文書(出願明細書等)から発明概念を把握するのが不得手のようですが、将来は、発明の説明書として完成された技術文書が存在すれば、人工知能が発明概念を把握する能力を獲得できるようになるかもしれません。しかし、仮に完成文書から発明概念を把握できるようになったとしても、例えば面談、メモ書き、図面、試作品等も交えた多種多様な手段でのコミュニケーションを介して発明概念を把握していくことは、人工知能では代替え不能と言って良いほど、困難かつ人間的な仕事と考えられます。

≪第2段階:特許性で発明を絞り込むステップBの仕事≫
第2段階は、ステップAで把握した発明概念について、その特許性を考慮しながら権利化対象の発明の範囲を絞り込んでいく仕事です(ステップB)。この仕事をするためには、対象発明の新規性および進歩性を判断できる能力が必要ですが、第3話で述べたとおり、特許性の判断(特に進歩性の判断)は人工知能にとって極めてハードルの高い仕事と考えられます。
このステップBの仕事は、公知文献から想定される技術水準を見据えながら、権利化対象の発明のカテゴリーとその構成要件を特定していく思考プロセスであり、単なる構成要件の対比や経験則の当てはめで済ませられるような活動ではありません。発明の範囲を絞り込むプロセスの随所に、柔軟かつ高度な価値判断を伴う創造性の高い活動です。権利化実務についての良質な研修訓練と、豊富かつ多様な実践経験を持つ弁理士が担い得る専門性の高い仕事であり、過去の経験則を当てはめることで結果を推論していく人工知能には担うことが困難な知的な活動です。

≪第3段階:事業性で発明を絞り込むステップCの仕事≫
第3段階は、ステップAで把握してステップBで絞り込んだ権利化対象の発明について、さらに実用性や事業性の観点で発明の範囲を絞り込んでいく仕事です(ステップC)。この仕事をするためには、発明にかかる事業環境や権利化の狙いなどを知る必要があり、その上で、権利化対象の発明の構成要件や実施の形態を特定していくことになります。
このステップCの仕事は、技術や法律以外の観点で権利化対象の発明のカテゴリーとその構成要件を特定していく活動です。社内の知財部体制が充実している先進企業では、この活動は社内で実質的に済まされていることもありますが、こういう場合こそ、社外の弁理士が活躍するステージともいえます。社外の弁理士であるからこそ、また、事務所の弁理士として他社のケースで多様な経験を蓄積しているからこそ、プロセスの随所に現れる柔軟かつ高度な価値判断を必要とする場面で効果的な役割を果たすことができます。このプロセスは、極めて創造性の高い活動であり、人工知能によって代替えするのは不可能と言って良いでしょう。

≪第4段階:クレーム、明細書を作成するステップDの仕事≫
第4段階の仕事は、ステップAで把握した発明について、ステップBとステップCの検討結果を踏まえて、法定の記載要件を満足するクレームや明細書を作成・作文する仕事です(ステップD)。この仕事は、権利化を希望する発明の目的、解決課題、解決手段、実施の形態、作用効果などを文章で解説していく創作性の高い文筆活動です。出願1件あたり和文1万文字を超えるのはごく普通の分量であり、技術知識と法律知識をバックグラウンドにしてクレームや出願明細書を作文する仕事です。このような文筆活動は、知恵と英知と創造性を兼ね備えて、実務的にも訓練された人間のみが為し得るものであり、人工知能で置き換えることができる種類のものではありません。

なお、類似する構成の出願発明が多数存在する場合や、発明の構成要件の一部を種々の態様に変形した関連する出願発明が幾つか存在するような場合であって、しかも特定分野の発明については、クレームや明細書のドラフトを人工知能で自動作成することも可能でしょう。例えば、ビジネスモデル関連発明やゲーム関連発明の場合は、人間によって決められたルールや約束事を前提として、データ処理の手順や情報の組み合わせなどで発明が構成されるため、人工知能によるクレームや明細書のドラフト作成に適しており、そのようなチャレンジも始まっています。もちろん、このような場合でも、完全自動化は非常に困難であり、重要なポイントのところで熟練の弁理士が適宜の判断や指示、調整を行うことが不可欠です。
特許制度で保護される発明には、ビジネスモデル関連発明やゲーム関係の発明のほかに、ハードウエアを巧みに利用するシステム発明や、さらに、機械、電気、化学、生物バイオ等のリアルな構造物や合成物、自然物に関わる種々の技術分野があります。これらのリアルな構造物等に関わりが多い発明は、人工知能によるクレームと明細書のドラフト作成支援のハードルは高いと考えられます。

以上の話をまとめると、弁理士による権利化業務の第1段階から第4段階の全てにおいて、第2話でもお話しした通り、
『弁理士が知的財産「権」の創造主体、すなわち、創作者や事業者が創り出した知的財産を素材として、知的財産権という法律上の権利を創り出すクリエイターとして活動している限り、弁理士の仕事の将来性は揺るがない』
ということです。

第1話と第2話では、知的財産および知的財産制度の将来性は盤石であると述べました。だからと言って、弁理士の将来も盤石で安泰かというと、必ずしもそうとは限りません。弁理士として何ができるか、どんな仕事ができるかによって、その弁理士の将来性は左右されるということです。人工知能では代替えできないクリエイティブな仕事ができるか否か、これが勝ち組と負け組の分水嶺になるということです。
そうであるなら、知的財産権のクリエイターとして縦横無尽に活躍できるよう研鑽と研修を重ねつつ、権利化実務の訓練環境が整った特許事務所に職を得て、知財専門家たる弁理士として着実に成長していくことが大切です。弁理士試験は知的財産権のクリエイターの登竜門でありながら、出発点に過ぎないことを自覚して、めでたく試験合格の栄冠を獲得した後も、謙虚に努力していくことが大切です。
努力する者は必ず報われます!

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