弁理士試験について語る

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第1部 王道を行く弁理士試験勉強法

第5話.弁理士試験の天王山は短答? 論文? それとも口述?

2018/09/23 公開

21世紀を迎えた頃の数年間に、弁理士試験制度が大幅に改正されましたが、それまでは、弁理士試験の天王山は論文式試験でした。制度改正前は、短答式合格の年に論文式に合格しなければ口述式は受けられず、かつ、論文式試験は必須5科目プラス選択3科目でした。この試験制度が段階的に改正され、論文式試験の必須科目から条約類が除外される一方で、選択科目に免除制度が導入され、短答式試験には合格の翌年の試験が免除される制度が導入されました。
このような試験制度の改革がなされる一方で、短答、論文および口述式試験の合格率は大きく変遷しました。結論から言うと、弁理士試験の天王山は論文式試験から短答式試験に大きくシフトしています。これは、次のグラフから読み取ることができます。

 

弁理士試験合格率

短答合格率が2008年から2012年頃の過渡期を挟んで大きく異なっていること、それに対して、最終合格率は多少の変動はあるものの短答合格率のような大きな変動がないこと、が読み取れます。この時期を挟んで、弁理士試験の天王山は論文式から短答式に大きく変遷したと言えます。
例えば、2014~17年の4年間と、その10年後の2004~07年の4年間について、それぞれ合計の短答式合格者数と合計の最終合格者数を集計し、4年間の合格割合を百分率で計算すると、次のようになります。

2004~07年の合格割合%
:100×(最終合格者総数)/(短答合格者総数)=100×2592/10902=23.8%
2014~17年の合格割合%
:100×(最終合格者総数)/(短答合格者総数)=100×1255/1998=62.8%

この数字は、計算した私自身も少し驚いています。短答合格者総数に対する最終合格者総数の比率が、23.8%から62.8%への大幅に上昇していたからです。短答式に合格した年に最終合格する受験者もいれば、短答式に合格した年の翌年以降に最終合格する受験者も多いので、上記の数字が厳密に短答合格者のうちで最終合格する人の割合を示すものではありません。しかし、単年ではなく4年間の合計で計算しましたので、ある程度以上の確度で合格割合を示していると思います。弁理士試験の天王山は短答式試験にシフトしている、ということが読み取れるでしょう。
最近数年間の最終合格者には、工業所有権法の免除者や短答式の全部または一部免除者が多く含まれているので、いわゆる合格率が把握しにくくなっています。そこで、これら免除者等を除外した「一般」系統について、短答式試験の合格者数/受験者数と論文式試験の合格者数/受験者数だけを集計したのが、下記のグラフです。前年の短答合格実績によって翌年の短答が免除される制度(持越し制度)が始まった2009年から短答合格者数が急減していることがわかります。このグラフの見方を変えると、2009年以降の数年間については、論文受験者を“適切な人数”とするために短答合格者数を絞った、とも言えます。

弁理士試験合格率

特許庁統計における「一般」系統の受験者数および合格者数からのデータから、短答式試験の合格率(=短答合格者数/短答受験者数)と論文式試験の合格率(=論文合格者数/論文受験者数)を計算して示したのが、下記のグラフです。論文受験者に対する論文合格率が25%前後で略一定しているのに対して短答合格率が大きく変遷し、最近は10%前後になっていることが読み取れます。そして、論文合格率が25%前後となるように短答合格者数を調整している、という憶測が生まれる原因も、この辺りにあると言えます。いずれにせよ、これらのグラフからも、弁理士試験の天王山は短答式試験にシフトしている、ということが読み取れるでしょう。

弁理士試験合格率

 

「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その4)
(2007年12月22日)
短答式試験合格の「2年間有効制」は有利な制度!?

 

来年から、弁理士試験の内容が変わります。最も注目すべきは「短答式試験合格者は、短答式試験の合格発表の日から2年間短答式試験のすべての科目が免除されます」という点でしょう。
この制度改正によれば、「試験は受けやすくなる! 受かりやすくなる?」ようにも見えますが、実際のところは…逆に「短答式試験が難しくなる」のではないでしょうか?
その理由は、①短答式試験の合格者は論文式試験の受験者であること、②論文式試験の採点は試験委員の人海戦術に頼っていること、の二つです。

短答式試験は、問題の選択枝から正解を選んでマークシートに記入する試験です。だから…問題文の作成は、かなり大変な作業(試験委員の負荷が大きい)ですが、しかし、採点は機械的に(コンピュータなどで)行いますから簡単です。極端に言えば、短答式試験は受験者が1万人でも10万人でも、あるいは100万人であっても、採点の負荷自体はそれほど変わらない。

論文式試験は、問題文に対する解答を論文形式で記述する試験です。だから…問題文の作成は、短答式に比べると相当に楽な作業ですが、しかし、採点は試験委員の手作業で一通ずつ行いますから、非常に大変な作業(試験委員の負荷が大きい)となります。つまり、論文試験の “採点の負荷”を考慮すると、論文式試験の受験者を無闇に増やすことはできない、ということです。

その状況において、「短答式試験合格者は、短答式試験の合格発表の日から2年間短答式試験のすべての科目が免除されます」ということになると、どうなるか。
簡単なシミュレーションをします。
・・・・・・・・・・
(条件1)短答式試験の合格者は2,500人とします。
(条件2)論文式試験の合格者は500人とします。
このように仮定すると、
<今までの試験制度>では、論文式試験の受験者は2,500人ですから、試験委員の “採点負荷”は受験者2,500人分となります。
ところが、
<今後の試験制度>では、前年の短答式試験の合格者で前年の論文式試験の不合格者は、翌年の論文式試験を受けることになります。
その数は、前年の論文での合格数で変動しますが、概ね2,300人とか2,400人となるでしょう。

この状態で、また2,500人の短答式試験合格者が誕生すると…論文試験の受験者は5,000人近くになります。
問題となるのは、論文式試験の採点負荷です。論文の採点は試験委員の人海戦術に頼っているし、それ以外に採点は無理です。手書き論文は人手以外に採点不能です。まさか、国家試験の採点の外注化なんて無理です。だから、試験委員を増やすしかない。
さて…そのようなことは果たして可能なのでしょうか。試験委員の増員は当然に為されるでしょうが、限度があります。

そうなると、考えられるのは、【短答式試験合格者数の減少】です。つまり、短答式試験が難しくなるということ。この「短答式試験合格者は、短答式試験の合格発表の日から2年間短答式試験のすべての科目が免除されます」という制度改正の影響が出るのは、再来年の試験からです。もし仮に【再来年の短答式試験合格者数は大幅に減少するかも!?】ということだとすると、【来年の試験で短答式試験に合格者する】というのは、受験戦略上は、とても重要であると言えるのではないでしょうか。

上記の「ほんやら日記」は2007年12月22日の記事ですから、すでに10年以上の歳月を経ています。このブログで「再来年の短答式試験合格者数は大幅に減少する」と予想した通り、短答合格は2009年から急に難しくなりました。その後に、私は試験委員を務めましたが、今になって記事を読み返すと、本試験の楽屋裏は概ね想像していた通りでした(詳細については、守秘義務に関係するので言及を控えます。)。このような試験制度の下では、短答試験の必須科目および論文試験の選択科目の免除制度をうまく使うことが重要になります。これについては、いずれ機会がある時に述べることにしましょう。

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プロローグ

第1部 王道を行く弁理士試験勉強法

第2部 短答・論文・口述式試験対策各論

第1章 短答試験

第2章 論文試験

第3章 口述試験

第3部 受験生活を乗り切り、不合格を乗り越える

第4部 弁理士を志望している方に「本音ベース」で贈る言葉

エピローグ

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